マビノギ演奏コンテスト応募作品「ぶくぶく ぶどういっぱい アンドモア!」制作裏話

オンラインRPG『マビノギ』で、2021年に「演奏コンテスト」が開催されました。マビノギのBGMをアレンジして演奏したゲーム動画が募集され、わたしは「ぶくぶく ぶどういっぱい アンドモア!」という作品で応募しました。

いつもの〈楽曲紹介ページ〉とは違う形で、動画が完成するまでの道のりをつまびらかに記したのが、このページです。

取り上げる作品の性質上、マビノギを知っているひと向けの記述が多めです。演奏はもとより、あんなこともこんなこともできる、マビノギの一面が伝えられるかと思います。また、なかなか〈楽曲紹介ページ〉のMMLの節でも取り上げる機会のない話も書いています。マビノギの演奏活動の一断面が垣間見えるような内容を目指しました。


公式サイトの演奏コンテストの投票ページで、応募作の33作品が見られます。多士済々、賑々しいコンテストとなりました。また、そこから投票などで選ばれた金賞・銀賞・銅賞・GM賞の作品は、結果発表のページに出ています。わたしの作品は落選でした。

なお、本稿に載せているゲーム画面のスクリーンショットのなかには、試作動画から切り出した低画質なものも含まれます。

このページで扱っている『マビノギ』のゲーム画像、ゲーム動画、およびゲーム内データの知的財産権は、株式会社ネクソンおよび韓国NEXON社に帰属します。© NEXON Korea Corporation and NEXON Co., Ltd.

応募作品

ぶくぶく ぶどういっぱい アンドモア! 【マビノギ演奏コンテスト応募作品】 - YouTube(外部リンク)

選曲

演奏コンテストに参加することにした経緯とか心境とかについては、本稿の終わりのほうに回して、アレンジする曲を決めるところから話を始めます。

普段のプレイでは、BGMの音量を切っています。改めてBGMを聴くと、初心者のころを思い出して胸が苦しくなったりもします。おもなストーリー(メインストリーム)をほとんどやっていないから、印象にない曲、知らない曲も多いのです。

ひと通り聴いて、「本気になれる曲」を絞りこんでいって、ブラゴ平原のBGM「ぶくぶく ぶどういっぱい」に取り組むことに決めました。

静かなピアノ曲を取り上げようかとも思いました(たとえば、イメンマハの人形職人の部屋で流れるBGM)。でも、アレンジするにおいていちばん血が騒ぐのがブラゴ平原の曲だったのです。血が騒いでうずうずして、本気になれるかどうか。アレンジできて幸せと思えるかどうか。これが肝腎なことだと思いました。

ブラゴ平原のエリアなんて、交易で通過する以外に来る機会がないから、BGMの知名度としては心もとない気もしますけれど、マス音楽ダンジョンの仕掛けに曲名当てがあり、そちらで聴き覚えがあるひとが多いかもしれません。

牧歌的な風景に似合う、さわやかなイントロが印象的な曲ですから、イントロは原曲になるべく忠実に、イージーリスニングふうに。途中からの部分を、歌ものっぽいアレンジでドラマティックに仕立てようと考えました。

別の曲もいくつか盛り込むほうがおもしろそうだし、独自性、アピール度も上がるだろうと考えました。メドレー形式ではなくて、「ぶくぶく ぶどういっぱい」のなかに溶け込ませる形にしようと思い、組み合わせをあれこれシミュレーションしました。

1曲まるごとアレンジする気にはなれなくても、印象的な一節だけをつまみ食いしたくなる、そういう曲ならけっこうあります。NPCノラの曲「私なら平気!」も、Aメロというか、出だしのところが好きなので、取り入れてみることにしました。

NPCメレスの曲「武器と傷」は、楽師活動を始めるよりも昔に、MMLに起こしてみたことがあって、なじみがありました。長年の楽師活動を1本の線で結ぶような、ごく私的な意図で、この曲も取り入れました。

ゲーム起動時のタイトル画面で流れる「お婆さんが聞かせてくれた昔の話」は、間違いなくだれかが取り上げるだろうと予想できました。ほとんどのプレイヤーが知っている看板曲を、途中で不意に挿入すれば効果抜群なはず。ダンバートンのBGM「新しい街」も同様です。以前にも別の機会に、ダンバートンのBGMをこんなふうに引用して挟み込んだことがありました。

MusicQアップデートの宣伝動画で使われた「My Little Melody」は、演奏コンテストで取り上げる曲としてふさわしいでしょう。ゲーム内では、マギグラフィ才能の紹介動画で聴くことができます。

ストーリー性を考えて曲を並べたのではなく、曲中に織りまぜやすいかどうかを計算に入れました。組み合わせをシミュレーションした、と先ほど書いたのはそのことで、ちょっと専門的な話になるので、「MMLづくり」の節で改めて触れます。

BGMのタイトルは、収録されているmp3ファイルのタグを見てもわからないことが大半。ゲーム内では、マビノベルエディターがBGM一覧として使えます(画像1)。これで正式な曲名がわかります。マビノベル素材集を集めないといけませんけれど、NPCが常時販売しているぶんだけでも、ある程度は網羅できます。(仮に全部の素材集を持っていても、すべての曲は揃わないので、とくに最近追加された曲については、ほかのサイトで情報を探すか、mp3のファイル名を代用するしかなさそう。コンテストをするなら、公式ページ内に曲名一覧を用意してほしいところでした。)

画像1:マビノベルエディターでBGMを選んでいるようす

MMLづくり

以下、順序立てて書いているのは振り返りの記事だからで、実際には、そんなに論理的に考えてばかりいたわけではなく、試作しながら手探りで最善の案に収束させていったのでした。

MML制作には1週間ほど費やして、おおよそ仕上がったのは8月26日。そのあとも何度か微調整しました。

マビノギMMLを書くときは、いつも「3ML EDITOR 2」(3MLE)というソフトを使っています。――動画のメイキング画像があとでたくさん登場するのに、MMLづくりに関する画像がないのは片手落ちな気がしたので、今作のMMLを開いた3MLEの画面のようすを載せます(画像2)。女声パートの冒頭部分のソースと、ピアノロールなどが表示されています。くわしい説明は省きます。ふーん、こんな感じなんだなあ、という程度で御覧いただければ。「リュート、チェロ、幻想ABは別ファイル。」というコメント文が書いてあります。現行のMML作成ソフト「MabiIcco」と違って、昔のソフトである3MLEで中規模・大規模な合奏曲をつくる場合は、複数のファイルで作業せざるを得ないのです。

画像2:3MLEでMMLファイルをひらいたようす

楽器構成

MMLアレンジをするにあたって、まず考えないといけないのが演奏人数。どうせやるなら合奏で、という考えがありました。ノートPCを2機持っているから、2キャラを同時に操って、演奏パートナーのラグリンネも出せば、最大で4人ぶん、自分ひとりでまかなえます。

しかし、歌もの路線で、メロディをボーカルで鳴らそうと考えると、4人合奏ではあきらかに足りないように思いました。まず女声がひとり。ベース役も当然必要。イントロの再現にはピアノが欠かせません。この3人ぶんで、最低限のアンサンブルはもちろんできるにせよ、そこからひとり加える程度では、まだまだアレンジの幅が限られてしまいそうです。

大人数合奏をするには、ツイッターなどでお手伝いを何人も募らないといけません。元来、気が小さいので抵抗感があります。仮にそうしても、貴重な時間を割いてもらうなかでは、何度もリテイクして質を上げるなんてことは望めません。

気兼ねなくお願いできる友達、クルピツアンさんと、ふたりで一緒にやることにしました。今回なぜ、マリーサーバーの「シラベル」ではなく、ルエリサーバーの「シラベルカ」で応募したのかというと、ルエリでならクルピツアンさんとそのラグリンネとを交えての6人合奏ができるから、というだけのことです。わたしの旧いPCで動画を撮るとカクカクになってどうしようもないので、動画撮影もクルピツアンさんにお願いしました。動画撮影の話はこのあとで。

ラグリンネは、ピアノ・ハープ・ドラムが演奏できないし、歌も無理だし、「ザブキエルの楽譜集」(MMLの文字数制限を緩和できるアイテム)も使えません。この点も計算に入れて、6人合奏の使用楽器を決めることになります。

インタラクションを使ってラグリンネを踊らせる、という演出はぜひ入れようと当初から考えていました。全篇踊らせると5人合奏になってしまうから、後半で踊らせて、前半だけ補助的なフレーズを担当させる形にしました。発音とモーションとが同期する「打楽器」をひとつ入れておくと、動画の見栄えとしても動きがあってよかろうという考えもあって、シロフォンを採用しました。

アコースティックギターのような役目の音を(マンドリンなどで)入れようか迷いました。でも、それだとピアノと役目がかぶりがちになるだろうから、いろんな扱いができるフルートを用いることにしました。

残るは6人目の楽器。パーカッション的な用途で空き瓶を使うという案に、当初、相当こだわっていました。タイトルの「ぶくぶく」にちょうど似つかわしい楽器だと思いましたし、ほかのひとがあまりやらないような手法をできるだけ入れたかったのです。でも、シロフォンが抜けたあと、フルートとピアノでどのくらい遊ぶ余地があるか、後半を盛り上げられるのか、かなり懸念がありました。悩んだ末、空き瓶は断念して、チューニングチェロにしました。低音でエレキのカッティングのような音を出して厚みを出せば、かっこよくできそうな見込みがありました。

いろんな手法を入れる一環として、幻想のコーラスも用いました。5人合奏になる後半でパワーダウンを感じさせない為でもあります。

合奏メンバーの並びの真ん中で録画しないと音が左右に偏るので、クルピツアンさんは中央で歌を担当。ラグリンネはザブキエルの楽譜集が持てませんから、自キャラがザブキエル楽譜のフルートとピアノを。そして、残りのリュート、シロフォン、チューニングチェロがラグリンネの受け持ちとなりました。

MMLアレンジの内容

今回のMMLは、演奏会での利便を想定しないことにして、なりふり構わず、ピアノには「ザブキエルの楽譜集(3)」を、フルートには同じく「(5)」を充てて、文字数を贅沢に使いました。女声は「王立音楽協会の楽譜スクロール」を充てて調律不要にしました。

しかし、ルエリではなかなかザブキエルの楽譜集が出回らなくて、手持ちの新品もぎりぎりの数しかありませんでした。各パートの音のテストはほかのサーバーでもできるので、そちらである程度仕上げてから、ルエリで楽譜集を使用。あとからMMLを微調整するチャンスが1回しかないことになり、ハラハラしました。

なお、楽譜集の「(5)」が手持ちになくて、「(10)」と「(3)」しかなかったので、実際には「(10)」をしぶしぶ代用しました(画像3)。

画像3:フルートの楽譜を収めたザブキエルの楽譜集

64分音符くらいの短い音を多用することで、ドラム抜きの編成でもメリハリのあるビート感が出せます。ふつうの8分音符に、64分音符ぶんずらしたv0の8分音符を同音重ねすることで、64分音符をふつうに置くより字数の節約になります。リュートとチューニングチェロでそのようにしています。バスドラムふうの音は、リュートの64分音符(より1tickだけ長い音符)の低音です。

フルートにも、こまかい音符・休符を大量に入れています。ピチカートふうに和音を刻んでいるのが、良いスパイスになっているはず。もちろん、疑似リバーブなどのおなじみの技も随所に。

女声は、どう伸ばしてどう区切れば人間味が出るかを、字数の制限内でなるべく配慮しました。単にラーラーラーとせずに、ラーラッラーとしてみるとか、そういうことです。なお、女声は「ぶくぶく ぶどういっぱい」のメロディを唄うことに専念させています。ほかの引用曲も女声でなぞると、散漫でわかりにくくなると思ったので。

幻想のコーラスは、伸ばしっぱなしの音(おなじ音高の連打)だけにして、すこしタイミングがずれても、違和感があまり出ないようにしています。音量は抑えめです。もうちょっとだけ上げてもよかったかも。起動タイミングについては、動画撮影の節のほうで説明します。

MMLの試作段階で5分を超える内容になり、これだとゲーム本体の録画機能では収まらないので、引用曲を減らしたり、繰り返し1回分を泣く泣く削ったりして、4分半未満に収めました。削るときは断腸の思いなのですけれど、仕上げてしまえば、削ったところに未練は残らないものです。

主旋律の一部分を伴奏に回したり、あるいは逆に、合いの手フレーズを主旋律につなげたりしました。ボーカルにとって(リアルの意味で)無茶な音域、無理なフレーズにならないような解釈をしました。付け足すというよりも、選び取ったり削ったりという作業が多かったアレンジでした。

曲の混ぜかた

今作のアレンジでは、曲の途中に、ほかの曲のフレーズを重ねるという手法を採りました。「お婆さんが聞かせてくれた昔の話」「新しい街」「My Little Melody」の引用部分は、単に「おいしいフレーズ」というだけでなく、いずれも「ぶくぶく ぶどういっぱい」の曲展開と相性がよいのです。相性とはなにか、音楽用語で具体的にいうと、コード進行が共通している、ということです。Jポップでも耳タコ……もとい、超定番のコード進行としておなじみの〈Ⅳ―Ⅴ―Ⅲm―Ⅵm〉(「4536進行」と呼ばれているようです)。「ぶくぶく ぶどういっぱい」の大部分は、このパターンの繰り返しです。(おおざっぱな説明です。実際には分数コードや、セブンス、ナインス系のコードも使います。)そして、上記の曲の引用部分にも、このコード進行(に似たパターン)が使われているのです。

おなじコード進行の繰り返しのなかで、たとえばフルートで「お婆さんが――」を弾きながら、チェロで「My Little Melody」を奏でる、などといったことをしています。あと、「武器と傷」は、ちょっとひねった当てかたをして、ささやかに重ねています。

いろいろな曲が登場するので探してみてねー、というようなノリです。こういうのは、制作者側が考えているほど、だれでも一聴で気がつくものではないのかもしれません。マビノギを知らない読者のかたへの説明を兼ねて、曲の展開をタイムラインふうにまとめてみました。(ある意味でネタばれですから、まず1回は聴いてみたあとで、確認として読んでいただければと思います。)

  1. 0分24秒:合奏開始。序盤のキリのいいところまでは「ぶくぶく ぶどういっぱい」そのまんま。
  2. 1分33秒:「私なら平気!」に切り替わる。
  3. 1分54秒:「ぶくぶく ぶどういっぱい」に戻り、シロフォンは「私なら平気!」の続きを、多少変形させつつ、2分18秒まで。
  4. 2分27秒:ピアノで「武器と傷」をもとにしたフレーズを混ぜる。ここから4分過ぎまで、コード進行はずっとおなじ繰り返し。
  5. 2分59秒:転調し、間奏のような感じで、ピアノが「新しい街」のメロディを鳴らす。以降も、その一部を合いの手フレーズ的に挟んでいく。
  6. 3分15秒:フルートで「お婆さんが聞かせてくれた昔の話」のワンフレーズを、ちらりちらりと挟み始める。
  7. 3分31秒:ここも間奏のようになり、フルートで「お婆さんが聞かせてくれた昔の話」を弾きながら、チェロで「My Little Melody」のメロディを並走。その途中で転調して、もとの調に戻る。
  8. 3分48秒:「ぶくぶく ぶどういっぱい」と「My Little Melody」の並走が4分4秒まで続く。4分13秒あたりにも、ちらりと「My Little Melody」のフレーズが。
  9. 4分23秒:1小節だけ「私なら平気!」を挟んでから、後奏へ。

このように、とくに中盤以降は、2曲のフレーズの並走が続きます。同時に3本以上のメロディを鳴らしても、聞き取れるものではないので、ふたつまでにとどめています。主旋律と対旋律以外は裏方に徹する、というのはアレンジの基本というべきなのでしょう。ついつい欲張って詰め込みそうになりますけれど、抑えるところは抑えないといけません。

動画撮影

ロケ地は、もちろんブラゴ平原。ブドウの籠が置いてあって、うしろにエリネドの醸造所の小屋が見える場所にしました(画像4)。

画像4:ブラゴ平原

最善の位置取りと演出方法を摸索しながらの撮影が、8月27日から、およそ1週間ほど続きました。1日につき、だいたい2時間くらいは費やしたと思います。自分ひとりでの練習や試行の時間も含めれば、かなりの長さになります。これならいける、と手応えのあったOKテイクが出たのは、9月4日でした。その次の日、作品タイトルを出す冒頭のシーンをどうするか、一晩中あれこれ試行。6日・7日にクルピツアンさんと撮影。数秒のシーンに計3日かけてしまいました。10日に投稿用の動画ファイルが完成しました。

画像5:自分ひとりで演出の練習をしているようす

わたしのサブPCは動作が鈍く、ゲームもカクカク状態、メモリ不足で落ちることもしばしば。そんなPCだから、ラグリンネを望みの位置と向きに立たせることだけで、かなり苦労します。撮影のたびに毎日、もたもたと位置取りしていました。

メインのPCでも、先に述べたように、応募できるレベルの動画が撮れないので、クルピツアンさんに録画を頼みました。クルピツアンさん側のスクリーンショットを見せてもらいながら、もっと上からのアングルで、とか、もっと寄せて、とか注文を出したりしていました。

あとでまた触れますけれど、動画内のチャットで曲名表示をしているので、動画が小さく表示されていようとも、ユーチューブに投稿したあとの画質であろうとも、文字が読みやすいように配慮する必要がありました。録画担当のクルピツアンさんに、フォントサイズを最大の20にしてもらいました。

録画したら、動画ファイルを毎度送ってもらって、もろもろの具合を確認して、セッティングを詰めていきました。とはいえ、日が変われば位置取りをやり直さないといけないし、動画のチェック時はいちいちログアウトしていたものだから、なかなか捗りません。しかも、晴れている景色で撮りたいというのがあったから、「朝待ち・晴れ待ち」をしないといけないし、クルピツアンさんの時間の都合ももちろんあったし、ほんとに、映画のロケみたいなものでした。いやな顔をせず毎日付き合ってくれたクルピツアンさんには感謝。


さて、以降の文章に演奏キャラの名前も出てくるので、簡単に紹介しておきます。わたしの持ちキャラが、シラベルカ、ソサーナ。友人のクルピツアンさん。この3キャラそれぞれのラグリンネが、ソファミン、キャミソラ、ピーエリスです。

演奏内容が最重要だとしても、画面上のインパクトも、評価に大きな比重を占めるだろうと予想しました。ただ演奏するだけの動画は、(演奏内容に沿ったモーションをするわけではないので、)動きが単調になって退屈です。思いつくかぎりの演出を入れて、すこしでも見ごたえのある動画になるように案を練りました。次項からは、演奏以外の工夫・味付けを、片っぱしから記していきます。

衣裳

ソサーナ、クルピツアン、ソファミンの服はNPCのコスプレです。このコスプレが、曲中に現れる別の曲のヒントにもなっています。ヒントだけ示して、曲を見つけ出してもらおう、というような狙いもあったのですけれど、ちゃんと出典は明示する形にして応募しました。そうしないと1次選考で、はじかれるおそれがあると思いました。

ノラのコスプレ

画像6は、ソファミンに着せたノラの衣裳です。ティルコネイルのNPCは、サービス初期の粗いポリゴンからリニューアルを経ているので、プレイヤー側が使えるリソースで服や髪型を再現するのが困難のようです。ノラの場合、前掛けの下部が濃い青緑になっていますけれど、「女性の伝統衣装」は、染色パーツの都合上、そのように染めることができません。ひとまず、ノラだとわかる程度の色合いにはしました。髪の色は似せましたけれど、髪型は変えていません。ノラの髪型も昔よりきめ細やかになっていて、対応する旧型のパーツをあてはめるのもなんだかパッとしませんでした。あまり見た目をいじくって、ソファミンっぽさがなくなるのもいやでしたし。いちおう、演奏会界隈では名の知られたラグリンネですから(ほんとかな)。

画像6:ノラと、ノラのコスプレをしたソファミン

装備品と染色データも載せます。数値は色のRGB値です。

メレスのコスプレ

画像7は、クルピツアンさんに着てもらったメレスの衣裳。わずかな色味の違いはあります。べつにコスプレコンテストではないから、極限まで突き詰めることはしませんでした。

画像7:メレスと、メレスのコスプレをしたシラベルカ

アイリースのコスプレ

画像8はアイリースの衣裳。曲の中身とアイリースとはなんら関係がないんですけれど、まあ、これはお遊びで、なんとなくやってみたかったのです。髪型も揃えました。靴は、「王室学校のリボンアンクルブーツ」をルエリで持っていなかったので、ほかの靴で代用。動画には全然映ってないけれど、帯剣もちゃんと揃えていました。

画像8:アイリースと、アイリースのコスプレをしたソサーナ

シラベルカの衣裳

まあ、ついでなので、シラベルカの服も(画像9)。コスプレではなくて、ぶどう色に染めた、カントリーガール的なコーディネイトです。染色データは割愛します。

画像9:シラベルカの衣裳

木の顔出し看板をかぶせた事情

ラグリンネにチェロを弾かせると、画像10のように、地面に下半身が埋もれてしまいます。

画像10:チェロを弾くラグリンネの下半身が埋もれる

正常なモーションは、左(ソサーナ)のようになり、ラグリンネの場合、右(キャミソラ)のように埋もれます。椅子だけがそのままなので、顔が椅子から突き出る恰好になって不気味です。数年前、ラグリンネの装備スロットのオモテウラになにを持たせているかによって、おかしな表示になる、という現象を調べたことがありました。それはもう直ったのかもしれませんけれど、いまもチェロに関しては不具合が残っているようです。

演奏の音には関係ないこととはいえ、動画として見てくれが悪い。さあて、困った、どうしようかな、この現象をいっそのこと逆に利用できないかな、と考えて、「木の顔出し看板」という頭装備をつけるというアイデアに行き着きました。ラグリンネが地面に半分埋もれると、木の顔出し看板がちょうど地面に根を張るような高さになります。

ですから、決して笑いをとろうとしてああいうかぶりものをキャミソラにさせたわけではなく、不具合っぽい挙動に対する苦肉の策なのでした。緑ゆたかな風景ですので、ちょうどいいでしょう。演奏中に揺れる看板がソサーナの頭にめり込まないように、位置取りをしました。

モンスターチョコレート

演奏前に、アイリースの像がチラッと登場します。これは「モンスターチョコレート」です。

画像11:アイリースのモンスターチョコレート

とにかく演出に使えるものはなんでも使おう、ということで、露店で買ったモンスターチョコレートでなにかできないか試していたら、撮影を繰り返す過程で失くしてしまいました。地面に置いてから3分で消えてしまうのです。失くしたことで、この演出への執着がむしろ強くなり、頑張って自力で再入手しました。

チョコ化できるNPCは限られています。アイリースの場合、好感度を上げる過程のクエストに、1対1で対戦するミッションがあるので、そこでチョコ化できます。「ホワイトチョコスティックワンド」を用いると、いちばん発色がよいチョコがつくれます。

動画では、思わせぶりに設置しておきながら、シラベルカがあっさり拾ってしまいます。演奏位置の目印に過ぎなかった、というオチです。曲やロケ地との関係の薄さは否めませんけれど、これで多少、アイリースのコスプレには必然性が持たせられたかなと。

マギグラフィ

自分でデザインした模様を一定時間、地面に表示できるシステムです。模様はゆっくり回転します。

動画ではカットしていますけれど、最初に幻想のコーラスを発動するその前に、マギグラフィも起動しています。手許にストップウォッチを置き、秒数を見ながら、マギグラフィを起動、その10秒後に幻想のコーラス(マギグラフィ起動後すぐに行動できるようになったのは後日のアップデートから)、そのあと歩いて位置につき、チャットを出し、マギグラフィ起動から26秒後に合奏を開始、という操作をしています。

マギグラフィは、3種類までセットできて、30秒ごとに次の種類に切り替わります。1・2番目には極小の図形を中央にひとつだけ入れた、からっぽ同然のマギグラフィをセットして、3番目に画像12のような、キラキラエフェクトを円状にならべた図形を出す、というふうにしています。

ピアノのイントロが終わったところでマギグラフィが現れるのは、そういう仕掛けになっています。

演奏会でも1度、このようなキラキラのマギグラフィを演出として用いて、わりとうまくいったので、その経験を活かしました。

画像12:マギグラフィでキラキラの輪を出しているようす

キラキラ(特殊効果「蛍」)は、まんべんなくというよりも、少々ムラをつけて外周に配置しました。画像13は、その編集時の画面です。

画像13:マギグラフィデザインウィンドウ・キラキラの輪

マギグラフィは、動画の冒頭シーンでも使っています。「ぶくぶく」はお絵描きチャットで、「ぶどう」「いっぱい」をマギグラフィで、「アンドモア!」をラグリンネのチャット(インタラクション)で表示するという、ある意味では貧乏くさい演出です。動画編集ソフトで字幕を入れるのはたやすいですけれど、あくまでゲーム内システムですべてを表現しようと考えたのです。

画像14:マギグラフィデザインウィンドウ・「ぶどう」
画像15:マギグラフィデザインウィンドウ・「いっぱい」

マギグラフィデザインウィンドウは、お世辞にも使いやすいとはいえません。それでも、しばらく前に行なわれた「マギグラフィSSコンテスト」では、不便な仕様をものともせず、力作を発表した猛者が何名もいました。あれだけのことができるのだから、自分もせめてこのくらいは、という気持ちでこの「ぶどう」「いっぱい」の文字をつくっていました。

これもいろいろ試作しました。画像16のように(これはほとんど人真似ですけれど)、アナログレコードを模した円のなかに、直線図形をならべて文字を書く、というのが当初のイメージでした。昼間の草地の上では読みづらいので、ボツに。直線ではなくて四角をつなげて、太字を模することにしました。

画像16:マギグラフィ試作品

起伏のある地面の上でマギグラフィを出すと、マギグラフィの一部が埋もれてしまいます(画像17)。マギグラフィが埋もれない地点を探しながら、どこでどう撮影するか頭を悩ませていました。

画像17:マギグラフィが地面に埋もれる

でも、椅子アイテムを使ってマギグラフィを宙に浮かせれば、埋もれなくなるから、「銅メダル表彰台」と「指揮者の[(ママ)]上」を利用することにしました(画像18がそのようす)。これが結果的には演出効果も生みましたけれど、マギグラフィを浮かせることが第一の狙いだったのです。なお、クルピツアンさんにも椅子アイテム「魔法のシャボン玉」を使って浮かんでもらいました。こちらは単純に演出用途です。

画像18:冒頭のシーンでマギグラフィを出しているときのようす

当初は、アスキーアートで飾ったチャットで作品名を表示しようかと考えていました。演奏会などと違って、フォントサイズによる表示差を考慮する必要がなく、特定のフォントサイズでうまく表示されればそれでいいので、アスキーアートはそんなにハードルが高くありませんし。それで、「0」や「o」や「○」など、円の形の文字を上下に並べたものを試作しました(画像19)。でも、泡やぶどうの粒のつもりなのに、細菌やウイルスみたいな感じになってしまって、時節柄まずいからボツ。四角形などで平凡に飾りをつけてもあまりインパクトがないので、アスキーアートをやめにして、先に述べた方法を採ったのです。

画像19:アスキーアートで飾った「ぶくぶく ぶどういっぱい アンドモア!」の吹き出し

お絵描きチャット

冒頭のシーンの「ぶくぶく」とNPCノラの顔は、お絵描きチャットで出しています。お絵描きチャットは、ヨコ256・タテ96ピクセルまでのサイズの、4色までの画像を描いてチャットとして表示できる機能です。これも演出に盛り込みました。わたしは、お絵描きチャットを合奏の位置指定によく用いますけれど、こういうイラストネタをつくったことはあまりないのでした。(画像20の、お絵描きチャットでの活用は御自由にどうぞ。使い道の有無はさておき。)

画像20:動画で使用したお絵描きチャット

お絵描きチャットが出ると、インターフェイス非表示モードが解除されて、ボタンやウィンドウが見えてしまいます。それでは動画として恰好が悪い。だから、最初にお絵描きチャットを出しておき、インターフェイスを再び隠してからの部分だけを動画に使う、という形をとりました。

当初は、インターフェイス非表示モードが解除されることに考えが及んでいなかったので、画像21のような感じで、お絵描きチャットを演奏中に出そうかと考えていたのでした。手書き文字を、シラベルカとソサーナでふたつ同時に出してつなげる案でした。

画像21:試作段階のお絵描きチャット「ぶくぶく」「ぶどういっぱい」

古書のキラキラ

マギグラフィのキラキラとは別に、うしろでずっと光っているものがあります。タラの影ミッションで手にはいる「古書」を置いています。

画像22:古書を配置したようす

モノクルを装備すると拾えて、モノクルをつけていないとキラキラに見えるアイテムです。これを集めるだけの為に、普段あんまり行かない影ミッションを周回しました。

これは、1時間まで置きっぱなしにできます。画像22は、本番とは別のときですけれど、このような感じで12個ちりばめました。アングルの都合で、ちょっとしか映せていなかったのが心残り。

ふりそそぐ陽射しに照り映える地面、というイメージを喚起させる為の飾りつけでした。

綿あめ

「熱気球青綿あめ」を食べると、5分間、画像23のようにキャラクターのまわりにキラキラした泡が出ます。4つしか手持ちがなかったので、これでいけそうだという確信が持てる段階まで温存し、はじめて食べたのが、OKテイクとなった撮影時でした。

お風呂上がりの表現……ではなくて、これも陽光のきらめきをイメージした演出です。

画像23:熱気球青綿あめのエフェクト

フクロウ便

途中で鳥が飛んできます。これはもちろん、クエストの任務完了ボタンを押したときに報酬を届けてくれるフクロウ便です。いかにもマビノギらしい演出といえるでしょう。あらかじめ、一日クエストや、「私の騎士団」の任務などを達成しておいて、レベルアップしないように気をつけつつ(エフェクトが出るので)、演奏中、頃合いを見て任務完了して、そのあとインタラクションでラグリンネからチャットを出しています(インタラクションの起こしかたはインタラクションの項を参照)。「フクロウ便が飛んでる~♪」というのは、NPCノラのセリフのひとつです。衣裳ではピンとこなかったひとも、さすがにこれで気がつくだろうという狙いもありました。

画像24:「フクロウ便が飛んでる~♪」

画像24は、ノラの吹き出しにあわせて、ソファミンにそのセリフをいわせてみたところを写したものです。ノラのセリフは「あっ、」で、ソファミンのほうは「あ、」になっています。フォントサイズ20ポイントの場合の行の折り返し位置を考慮して、1文字削りました。「♪」は、表情エモーション文字列マビノギのチャットと歌詞出しのページ参照)としては「(嬉)」と同等なので、実際には「フクロウ便が飛んでる~♪(笑)」というふうにして、表情が「(笑)」になるようにしました。

インタラクション

演奏会においても、インタラクションを使って、パートナーキャラから歌詞チャットを出したり、パートナーキャラを踊らせたり、といった演出に取り組んできました。その経験の積み重ねを、本作でも存分に活かしています。

これまで紹介してきた部分にも、パートナーキャラを対象にしたインタラクションの活用が含まれていました。後半でいよいよ本格的に登場です。なお、サブPCまで操作する余裕がないので、インタラクションで動いているのはソファミンのみです。

曲の中盤で、ソファミンの演奏が終わります。その直後の一連の操作がなかなかドキドキものです。順に詳述すると、まず、ソファミンに幻想のコーラスをさせます。2拍目のタイミングでキーを押して起動(MML上では4拍目から合わせていますけれど、早めにキーを押さないと遅れがち)。合奏前に起動しておいた幻想のコーラスと合わせて2本ぶんの音が、これ以降、ほのかに左右で重なります。コーラスのあと、すばやく休憩させます。座るモーションが終わる前に、チャットでインタラクションを起こして「力強くジャンプ」させます。これで前に飛び出します。ジャンプのモーションが終わりきる前に、次のインタラクションを起こして、それからは、いろんなモーションを繰り出して舞い踊る、という趣向になっています。

やりかたは、マビノギのインタラクションと歌詞出しのページに載せていることの組み合わせです。「/パクパク 01」「/パクパク 02」などのような、吹き出しに現れない文字列をチャットすることで反応させています。休憩させておかないと、途中で勝手にしゃべったり動いたりしてしまいます。

後奏の直前あたりから、インタラクションのチャットによって曲名を出しています。ほかの演出はともかくとして、ここの曲名表示はどんな画質で再生されていても読み取れなければならないので、フォントサイズを20にする必要がありました。フォントサイズを上げると、積み重なった吹き出しの上部がどうしても画面外に切れてしまいます。それでも支障なく文字がちゃんと追えるように、チャットを小出しにしました。動きの少ないモーションにしているのは、吹き出しを揺らさない為です。

インタラクションの内容のうち、後半の踊りのモーションについて、順番に書いておきましょう。

  1. 力強くジャンプ、表情「笑」
  2. お尻ふりふり
  3. バレエ
  4. 扇の舞
  5. 表情「笑」
  6. ディスコ
  7. 表情「幸」
  8. ブレイクダンス
  9. 回転して転ぶ、表情「混」
  10. 回避
  11. いらっしゃいませ
  12. 丁寧な態度3、「《原曲・引用曲》」を含むチャット
  13. ……以降、曲紹介のチャットが続く

踊り系のモーションとうまく合うBPM(テンポ)を割り出そうとしましたけれど、それぞれまったくばらばらなので、あまり気にしないことにしました。でも、小節の1拍目で大きい身振りになったりしているし、案外うまくハマったように思います。

「ブレイクダンス」から「回転して転ぶ」につなげるのは、演奏会でもやっていたお気に入りパターン。「いらっしゃいませ」はノラのものまね。

最後の「ありがとうございました」の部分は、一度に3つのインタラクションを起こして、3つぶんのチャットをさせて、曲紹介の部分を吹き出しから追いやっています。

ミニドール

マビノギといえば羊です。演奏中の動きの少なさを補う為に、「羊ミニドール」を出しています。2匹の羊が、ランダムにうろうろしています。これも、撮影を重ねる過程でつけ足したアイデアでした。召喚のたびに色が変わるので、ワインカラーを狙って何度も出したり引っ込めたり。本番時はピンクで妥協しました。

画像25:羊ミニドール

その他のこまかいこと

ラグリンネのランダム発言

演奏開始前のラグリンネは、ふらふら歩かないように「とまれ!」命令で位置を固定しています。この場合、動画のように「ふふふ、今日の気分はどう?」などのようなセリフをランダムで発してしまいます。ウィンドミルスキルで待機させれば、セリフが抑止できます。ただ、合奏開始のときに「ウィンドミルスキルをキャンセル→合奏アクションを起動」という処理になるぶん、ラグリンネの演奏タイミングが遅れるおそれもあったので、普段どおり「とまれ!」で制御していました。

背景音ボリューム

演奏をする・聴く場合は、BGMの音量(環境設定の「背景音ボリューム」)を絞りきるのがふつうです。フィールドBGMは通常、曲が終わるとループせずに、鳥のさえずりなどの環境音に切り替わります。今回は動画ですから、演出として、そういう鳥の声が演奏の前後に聞こえると雰囲気が出るのでは、とも考えました。しかし、演奏中のBGMの音量は20デシベル以上さがるとはいえ、完全にミュートされるわけではなく、鳴っていることには変わりがありません。わずかながら演奏音に混じってしまいます。撮影しながら環境設定をいじるわけにもいきません。リハーサルの当初、ちょっと迷いがありましたけれど、結局は無音の設定でいくことになりました。効果音ももちろん無音です。ただし冒頭のシーンは例外で、成功時の効果音(いわゆる「テレッテン」)をサウンドロゴのように登場させています。

環境依存の音質の違い

クルピツアンさんに試しに録画してもらったのをチェックしていたら、音量がおかしいことに気づきました。静かに始まる曲なのに、いきなり音が大きく、中盤並みの音量になっていました。すこし調べたところ、サウンドドライバーの設定(画像26はその画面の一例)で、音量を補正する機能(ラウドネスイコライゼーションなどと呼ばれるもの)があり、それをオンにしていることによって、意図しない音量になっていたようでした。そういう類の機能を一旦切ってもらうように頼んで、解決しました。

「音の明瞭化」タブに、「低音ブースト」「仮想サラウンド」「室内音響補正」「ラウドネス イコライゼーション」の項目があり、有効・無効を切り替えられる。
画像26:スピーカーのプロパティの設定画面の例

今回のコンテストの作品を見ていくと、音量もそれぞればらばらですし(これはマビのゲーム内の環境設定が主因でしょうか)、なかにはリバーブのような効果が加わっているものもありました。そういう効果も、やはりサウンドドライバーの設定によるものなのでしょう。ひとそれぞれ、PCの環境によって耳にしている音が違う、ということを改めて認識しました。(まさか動画編集でリバーブ類の効果を加えたということはなかろう、と仮定して書きました。さもなくば、なんでもありということになってしまいます。応募要項には、音声加工禁止とは書かれていませんでした。)

仕上げ

動画編集・エンコードには、いつも使っている「AviUtl」を用いました。

ある程度キャラクターが大きく映っていないと、画面が地味になりがちです。なるべくキャラにカメラを寄せて、と伝えながら撮影していましたけれど、ぶどうの籠を画面に収める必要もあったし、キャラの位置の微調整も大変で(とくにラグリンネが)、なかなか理想どおりにはいきません。引きのカメラで録画されていても、あとでトリミングすればいい、というふうに考え直し、撮影時は細かくこだわらないことにしました。それで、録画してもらったファイルの編集時に、画面の端を切り、サイズを1280×712から1152×648に変えてエンコードしたのですけれど、それをユーチューブに上げてみると、画質が「480p」までしか選べません。これだとキャラ名すら読めないくらいぼやけます。ヨコ1280・タテ720のどちらかを満たしていれば「720p」の解像度で表示ができるようでした。遠回りした末、ほとんどトリミングしないことにしました。タテは712でなく、16の倍数の704にして、下をすこしだけカットしました。

前述のように、字幕などに頼らずにすべての情報をゲーム内で表現したので、編集らしい編集は、冒頭のシーンと演奏前のシーンとのつなぎ、どのフレームから始めるかの吟味、これだけでした。

あとは、最適なエンコードの設定を詰めるのに手間どりました。コンテスト用の動画だから、処理の時間効率よりも、画質をできるだけ優先しました。興味と知識のあるひと向けにつけ足すと、x264出力の設定は「--preset slow --crf 20 --keyint -1」にしました。

心残り・反省点

動画についての一番の心残りは、先にも触れましたけれど、キャラの映りがやや小さめだったという点です。(ただ、受賞作を見るかぎり、それをマイナス要素と捉えるのは考えすぎだったのかもしれません。)

後半、ソファミンをもう1歩くらい内側に寄せて、カメラのほうを向かせられていたら、より良かったかもしれません。これもなかなかデリケートなところで、キャラの見かけ上の向きは、プレイヤーによって違って見えることがありますし、わずかな向きの違いが「力強くジャンプ」後の位置に大きく影響します。また、真ん中に寄せすぎると、シラベルカの正面に動いたとき、画像27のように、半透明表示になることが(スクリーンショットモードでも)あったので、安全を採って、あえて遠めに、右側に寄せたのでした。「もっと真ん中で踊らせたらよかったのに」と感じて票を入れなかった視聴者もいたかもしれませんけれど、実際、このような事情があったわけです。

画像27:スクリーンショットモードでもキャラが透ける

ピアノの音が左に寄り過ぎたのも、ちょっと悔いがあります。半歩の違いで、左右の音の定位がけっこう変わるし、上下の角度によっても変わります。ふたりでの共同作業でしたから、なかなかすべてをコントロールはできません。

終盤、ほんの一瞬、左チャンネルの音が割れる箇所があるのも、もうちょっと真ん中に音が寄っていれば緩和できたかもしれません。その箇所のピアノのMMLを手直しして、ザブキエルの楽譜集を取り替えて、手持ちを使いきった上でのことなので、仕方なしです。


コンテスト応募期間は、8月25日からの3週間でした。8月のうちにMMLをあらかた仕上げ、動画制作を27日から始めていたにもかかわらず、締切りの数日前まで投稿がずれ込んでしまいました。いいふうに捉えるなら、余裕をもって早めに取り組んだので、妥協せずにとことん仕上げられた、ともいえます。こういうのって、そうだなーどうしようかなー、なんて楽しく悩んだりして先延ばししているうちに、期限が近づいてしまって、結局間に合わなかった、なんていうオチになりがちなので、募集初日に提出できるくらいの勢いで前のめりに取り組むのが吉、だと思いました。

「バンドコンテスト」から「演奏コンテスト」まで

10月下旬に演奏コンテストの結果が発表されました。この作品は、金賞を射止めることはできませんでした。銀賞も、銅賞も逃がしました。そしてGM賞ももらえませんでした。

これで、2013年の「バンドコンテスト」に続いて、またしても入賞できなかったことになります。……「バンドコンテスト」の話、昔の話も書いておきましょう。


ゲーム内で曲を書いて演奏できることに惹かれて、マビノギを始めたわたしでしたので、2013年の「バンドコンテスト」は、もちろん参加しました。自作曲の募集(バンドでなくてもよい)でした。「パストラール ~あまい輪郭~」をつくり、当時の知人の協力のもと、共同名義で応募してもらいました。

画像28:2013年のバンドコンテストに応募した「パストラール ~あまい輪郭~」の動画のスクリーンショット

10数組のエントリーがあったと記憶しています。結果は落選。現在、ユーチューブ上にその動画は存在しません。

「バンドコンテスト」は、他社(電撃オンライン)による開催でした。そして、マビノギ運営スタッフによる企画で行なわれた「演奏コンテスト」の1回目は、MusicQアップデートの時期、2016年末ごろに募集がありました。ゲーム内のNPCから譜面入りの楽譜を買って演奏する、という内容で、演奏コンテストというよりは動画コンテストでしたので、多くの楽師勢には食指の動かないものだったろうと思います。

そして今回の演奏コンテストは、マビノギBGMのアレンジ、というお題。自作曲で挑めないのを残念に思ったのは一瞬のこと。アレンジかあ、ようし、絶対に金賞を獲るぞ、という思いがすぐに湧きました。


「バンドコンテスト」に応募して選外だったくやしさが、その後の演奏会通いへの執念にもつながっていきました。そうして半年、1年、と弾いていくうちに、演奏会の常連メンバーに名前を覚えてもらえるようになり、いろんなかたの表現と情熱にも触れ、やがて少ないながらも、ファンですという声をいただいたりもして、執念の中身もだんだん変わっていきました。承認欲求がゼロになることはないけれど、それよりも、演奏会を通じて自分になにができるか、楽しみに来場した皆さんになにが届けられるか、自分もやってみたいと思ってもらえるような公演ができるか、などのほうに、より意識が向かうようになりました。

今回のコンテストで、そろそろ「バンドコンテスト」のときのくやしさにケリをつけたい、と思っていました。まだMMLづくりに習熟していなかったあのころから積み重ねてきたいろんな経験を、惜しまず懸けようと思いました。この機会を看過したなら、今後のわたしの音楽活動においても、なにか影を落とすような気がしました。

それから、自分の音楽を届ける機会をくれたマビノギという場への、そしてマビノギの演奏会に関わったひとたちへの、ささやかな恩返しになれば、という思いもありました。

子供のころから、コンテストとかコンクールとか、そういうものと接点が――図工の授業で描いた絵でなにかの佳作賞をもらった程度のことならあったかもしれないけれど――ほとんどないまま生きてきました。それってあんまりよくないことだったのかな、そうでもないのかな、などといろいろ考えもします。今回のコンテストを経て、なにか気づくことがあるのかもしれない、と思っていました。


負け惜しみのようになるから、コンテストの結果に関して思うことについては、深く語らないことにします。前より歳をとったせいなのかどうか、正直、くやしさはあまり感じなくて、むなしさのほうが強いような。

制作中は、金賞が獲れなかったら楽師を辞める、くらいの張りつめた気持ちで取り組んで、誰も文句のつけようのない作品、長年の楽師活動の総決算といえる作品を目指して、最善を尽くしたつもりです。それでも賞に届かなかった。だからといって、自分には技倆などこれっぽっちもなかった、自分が積み上げてきたものはその程度だった、もう辞めてしまおう、なんて投げやりになるのは、自分の音楽に好意を示してくれるかたがた、「コンテストの動画よかったです」と声をかけてくれたりするかたがたに対して失礼になります。そのへんは踏みとどまるにしても、これまでの延長上で楽師活動をしていてもしょうがないな、ちょっとずつ変えていかなければな、とは思っています。