エリン音楽ひろば 2024年12月

オンラインRPG『マビノギ』で、2024年12月29日に開催したプレイヤーイベント「エリン音楽ひろば」の内容を載せています。

第19回、タルラークサーバーです。主催は、羊野めろさんと、わたし(シラベルカ)です。

このページで扱っている『マビノギ』のゲーム画像やゲーム内データの知的財産権は、株式会社ネクソンおよび韓国NEXON社に帰属します。© NEXON Korea Corporation and NEXON Co., Ltd.

内容のまとめ

内容は、羊野めろさんのブログ記事もあわせて参照してください。

出てきた話題・質問を要約したつもりですけれど、当日に言及できなかったことばかり書いてしまったような感もあります。

マビノギ公式による「『マビノギ』著作物利用ガイドライン」について、何回読んでもぴんとこず、なんとなくマビ曲OKというのがわかったようなわからないような……。解説や見解をお願いします

ゲームに基づく二次創作や動画配信などを手掛けるひとの活動を促進する「マビノギ宣伝部」という仕組みが、2024年11月から導入され、件のおしらせは、それに伴うルール整備として公開されたものと思われます。ネクソン運営による別のゲーム、たとえば「メイプルストーリー」などでも、もっと以前からほぼおなじ文章によるガイドラインが出ています。

ゲームを構成する著作物(コラボ関連を除く)をもとにした二次創作物については、出典がマビノギであることを、運営会社名「NEXON」をふくめて明記すれば、非営利で公開することができます。ただし、ユーチューブやニコニコ動画など、無料で閲覧できるサービス内で『広告収入等により収益化すること』は認められ、また、運営が公認するイベントであれば作品の販売も認められます。

マビノギで使われているBGMをMMLでの表現にアレンジして、ゲーム内で演奏すること、またその演奏を記録したものを別のところに載せること、これは二次創作物の公開にあたるのか、ということが楽師にとって重要なところです。

わたしの見解は、告知が出た日にブルースカイにてすでに書いたとおりです。

もうちょっと突っ込んで書いてみます。

ガイドラインには、二次創作物について、『動画(ゲームプレイ動画、ゲーム紹介動画等を含む)、静止画、同人誌、マンガ、小説等』と書かれています。「等」ってなによ、ということになりますけれど、サービス中のすべてのゲームに演奏システムがあるわけでなく、ガイドラインの文章が使いまわしである以上、あえて音楽を対象外としたと読むのは不自然で、著作物一般が当てはまると考えるのが自然です。

曲のアレンジを二次創作物と呼ぶのは、ちょっと一般的な感覚に合わない気もしますけれど、ゲーム内コンテンツに基づいた作品には違いないでしょう。耳コピであれ、楽譜読みであれ、マビノギ用MMLにつくり変えるのであれば、仮に原曲に忠実であっても、広い意味でのアレンジになると考えてよいはずです。おなじ曲をもとにして、だれがつくってもおなじようなMMLができるのでないかぎり、それぞれのMML作品にはいくらか創作性が加えられているといえるので。

明記されてないんならだめではないか、「……と読むのが自然」「……と解釈できる」ばかりではどうにも頼りない、と思うひともいるかもしれません。ルールを記述した文章というのは、あえてぼかしておいて「実情に即した弾性的な運用」がしやすいようにしておくものなのだろうと思います。知的財産権に関する法律に詳しいひとでも、立場やスタンスによって、個別事例に対する見解がさまざまになるものです。

マビノギというゲームのなかでマビノギの曲を弾く、ということがそんなに不自然でだれかに不利益をもたらすものでしょうか。ガイドラインが出る以前から、その問いを起点に考えていました。公式主催による演奏コンテストでマビノギのBGMのアレンジ作品が募集された過去もあります(わたしも「ぶくぶく ぶどういっぱい アンドモア!」で応募しました)。もっと昔には、GM演奏会なんていうのもありました(ゲーム内BGMが運営スタッフによって合奏されました)。これらのことも判断材料になります。ルールに縛られたりおびえたりするのではなく、ルールをうまく利用するくらいのしたたかさを、ユーザー側も持てたらいいと思います。

ネクソンの提供するゲームのサウンドトラックの著作権は現在、「NECORD Music」でまとめて管理されているようです。ほかのゲームのことはわからないのでいちおうマビノギに絞って簡単にまとめると、それらの楽曲を用いた二次創作物の公開が一定範囲で認められていて、MMLを使って表現したマビノギBGMの演奏の公開もそれに含まれます。公開時にはゲーム名と運営会社名を明示すべし。――ひろばで出た意見も、この筋でおおよそ見解が一致していました。(ゲーム内でマビノギ曲を弾くかぎりは、聴き手となるプレイヤー全員にとって「NEXON」は自明のことですから省いて紹介しても許されると思います。)

サビにあたる部分を聴くと、あ、これはサビだって分かると思うのですが、どうしてサビだって分かるのでしょう? サビをサビたらしめているものは何なのか

曲を書きかけていて、「サビになってほしい部分がサビっぽく聴こえない」というのが質問の発端だそうで、しかし「どうしたらサビらしくなるか、なら…メロディ作り直せば済むので難しくはなく」と話されてもいたので、サビはなにゆえにサビなのか、というのが質問の核心だったかもしれず、ちょっとそのあたりがつかめないまま、おもに方法論についての意見交換に寄ってしまったかもしれません。ひろばでみんなとしゃべった内容については、めろさんのブログに任せて、サビとはなんだろう、のほうをここで取り上げます。

ひろばでのわたしは「サビとはなんぞや、ときかれてもわからない」と話しましたけれど、あれからいろいろ考えをめぐらせました。

サビとは、思い出のようなものでしょう。長くて短いポピュラーソングの歴史で積み重ねられてきた「お約束」を、効果的に色濃く詰め込めば、サビらしくなります。AメロBメロCメロのような構造があっても、まったく馴染みのない手法や形式による音楽だと、聴いていてもサビがここからここまでだと認知できないでしょう。

メロディにしても歌詞にしても音の重ねかたにしても、こうきたら次はこうなる、というパターン、「お約束」に忠実なほうがわかりやすく、わかりやすいほうが受け容れられやすいものです。ただし、終始ずっとそんな調子だと平凡な曲にしかならないので、ちょっとだけ飛躍させたりずらしたりして、それがうまくハマれば時代の風雪に耐える名曲になれるかもしれません。やがて、みんなすっかり慣れてしまった飛躍やずらしが、ちょっとかっこいい「お約束」として定番化していくのです。

量産型のJポップ(アニソン、ボカロ曲なども含む)のサビにだいたい同じようなコード進行が現れるのも「お約束」の積み重ねの結果。

また、メディアを通じて断片的にヒット曲のサビが繰り返しひとびとの耳に刷り込まれることにより、サビはますますサビらしくなっていきます。

過去のたくさんの曲のサビを研究して、元ネタがわからない程度のほどよい既聴感を聴き手に与えることで、新曲であっても「すでに刷り込まれているかのような」サビらしさを醸し出すことができます。

……と、なんか皮肉っぽい文章ですけれど、結局はそんなものではないでしょうか。「サビにあたる部分を聴くと、あ、これはサビだって分かる」かどうかも相当疑わしいです。生まれてから音楽を聴いたことがなかったひとが初めてJポップを聴いたとしたら、次から次へどんどん感じが変わるばかりでなにがなにやら、最初から最後までめまいのような衝撃を受け続けた、という感想を持つかもしれません。サビをサビだと聴き分けるのは習慣的な面が多分にあるように思います。半世紀以上前の曲をいろいろ聴いていると、サビらしさがずいぶん薄いと感じたり、どれがサビなんだ、と思う曲にもけっこう出会うのではないでしょうか。それは、音楽家や一般の聴き手の間での「お約束」が現在といくらか違うからでもあるでしょう。逆にこの先20年後、サビらしさはまたすこし違っているかもしれません。

ともあれ、この質問の相談中、「Aメロとかサビとか、もういいよ、そんなのに囚われるのはよそう」といいたくなるのをこらえていたのでした。サビらしいサビをつくりたい、ということであれば、マスメディアとのタイアップのちからを借りつつ浸透していった〈20世紀後半型の流行歌〉を愛し、研究するのが一番。わたしもそういう音楽の影響を受け、多くを学び、そして引きずられています。継承することはとっても大事。でも、すでに21世紀も4分の1くらい過ぎています。フェイクな断片の洪水にみんなして踊らされるようになった時代に、のんびり3~5分間、AメロBメロサビ間奏、なんてやっていては流行歌のクラシック化、遺物化が進むばかりです。気づいている音楽家たちはいっぱいいるのでしょうけれど。わたしは半世紀以上前のポップスを聴いたり、サビの概念がない音楽を聴いたりしながら、自分なりの歌の書きかたができないかと、ヒントを探しています。

ここに書いたような考えは、ひろばで語るにはちょっと尖りすぎているし、それ以上に、すぐに悲観的な方向に転がってしまう思考癖にちかごろ拍車がかかっているので……。あんまりこんなことばかり考え込んで、曲がつくれなくなってしまってはどうしようもない。うう、困った。

リアルの鍵盤楽器で、右手でメロディ、左手でコードを弾く場合、小節の変わり目など和音が変わるときに、もたついて止まってしまう。スムーズに弾くコツはありますか。身体で覚えるしかありませんか

身体で覚えましょう。練習あるのみ。……というだけで終わっては申し訳ないですね。相談中には、楽譜のすこし先を見ながら弾くとか、楽譜を読むのとおなじ速度で同時通訳のように弾いてみるとか、テンポをぐっと下げるとか、いくつか提案が出ていました。

わたしは鍵盤楽器がまったく得意ではありませんけれど、思うところを書くと、まずとにかく、簡単な1曲を楽譜なしで弾けるまで指の動かしかたを身に染み込ませてみましょう。最初はコードのうち根音だけを弾いて、だんだん複数の指を同時に使えるようにしていくといいかもしれません。子供のころ、カシオのキーボードの自動伴奏機能で遊んでいました。Cメジャーコードなら〈ド〉の鍵盤だけ、Cマイナーコードなら〈ド〉の鍵盤とその右側のどれかもう1本の鍵盤を同時に叩けば、あらかじめ収録されている伴奏のパターンがそのコードで反復されるのでした。だんだんそういうのでは物足りなくなって、構成音それぞれをちゃんと指で弾くようになっていったわけです。

多くの曲で似たような運指が出てくるものですので、1曲が弾けるようになれば、別の曲もすでに部分的に弾ける可能性があり、習熟がすこし楽になります。そうやってだんだんレパートリーを増やしていくうちに、気づけば以前よりスムーズなコードチェンジができていることでしょう。

運指を含めた体の動きを一種の図形のようなもの、あるいは書道の筆づかいのようなものとみなして、形で流れを覚えてみるといいかもしれません。

タイピングのブラインドタッチができるひとが、キーボードの文字の配列をすべて正確に覚えているとは限らないはず。この文字があるキーはこの位置にあるからこの指で打つ、といちいち毎回考えているわけではありません。それと似たようなもので、とにかく運指自体に意識が向かなくて済むようになるまで、毎日くりかえし、くりかえし。まあ、成果を形に残すなどしながら、楽しく取り組むのがいちばんだと思います。

シラベルさんとめろさんはクリスマスに何か食べましたか? ケーキ食べたなら、何ケーキか知りたいです

なかなか質問が出なかったので、場つなぎと、こういう軽い話題でもいいという例を兼ねての、お優しい質問でした。

この年のクリスマスといえば、そのすこし前の日、めろさんたちの主催によるクリスマス演奏会でちょっと弾いてきたというくらいかな。特定の日に特定のものを食べたり特定の行動をとることに興味がない、というか恥ずかしいのです。あえて節分に恵方巻をかぶりつく義理もないし。誕生日やクリスマスにケーキを食べたところでべつにうれしくなるわけないし。バレインタインデーも。ハロウィンも。子供の心を忘れた寂しい人間ですねえ。めろさんの答えを聞くにつけても、こういう話のできない自分のつまらなさが際立って、ただうつむくばかり。ちなみに、お正月におせちを用意するような家庭に育たなかったので、おせちも食べません。お餅だけは食べました。

年末年始に聞きたくなる曲、いつも聞くよーって曲ありますか?

結局質問が出なくて、めろさんが代わりに、誰でも答えられるような話題を振りました。みなさんそれぞれから、多種多様な曲名が挙がりました。わたしは、さっきも触れたようにひねくれ者なので、年末年始だからなにかをする、クリスマスだからなにかをする、というのが好きではなく、フラットに過ごそうとします。演奏会では時節柄にあわせた選曲を心がけますけれどね。

スクリーンショット集

画像1:開会後のBGMコーナー

開催時間を21時半に変更した今回から、構成をマイナーチェンジ。昔のひろばでも、開会前の時間にBGMを鳴らしていましたけれど、それをもうちょっときっちりやる形にして、最初にわたしとめろさんの合奏で3曲お届けしました。わたしからは「カニのみそしる」と「トーレンティン」を。そのBGMコーナーを最初にやってから40分ごろにオープニングテーマと開会のあいさつ。30分の時点ではエリン時間がまだ夜中で画面が暗いし、かといって昔のひろばのように21時40分スタートというのはどうにも中途半端でわかりづらいと思い、このようにしました。

画像2:質問相談コーナー

画像2は、質問相談コーナーのようす。きょうはいつものサポートメンバーが病床でお休みでした。めろさんとふたりでおおきなミスもなく仕切ることはできましたけれど、時間の配分に相変わらず課題が残りました。

画像3:「お正月」の合奏

画像3、最後は例年どおり、ハンドベルを用いた、めろさん編曲の「お正月」の合奏で締めくくり。例年どおりといっても、タルラークサーバーで弾くのは初。

画像4:エンディング

23時10分ごろに閉会でした。めろさんの思いつきで、いつもと違う位置での記念撮影となりました。来ていただいたかた、ありがとうございます。

次回は2025年2月23日、マリーサーバーで開催の予定です。……けれど、どうしたらいいんだろうかという懸念が出てしまいました。

これからの懸念

起こったこと

ひろばが終わって数日後のお正月、このひろばのようすが含まれる配信動画を発見してしまいました。

告知にて案内しているとおり、本ユーザーイベントのルールとして「このイベントやその内容について紹介する(SNSやブログに投稿する)際は、ご自身以外の参加者の名前などを載せない」ことをお願いしています。あとで詳しく書くとおり、参加者全員に安心してしゃべってもらえるように、という配慮です。おなじ理由で「動画配信は禁止」です。

それにもかかわらず、わたしたちの知らないうちに動画が配信されていました。その配信者は、偶然にひろばの会場を通りかかり、ふらりと立ち寄る感じで見物ないし参加をしていました。閉会の最後まで、おなじ日に開催されていた別のユーザーイベントと、混同されていたままのようでした。つまり、プレイヤー掲示板に載せているエリン音楽ひろばの告知記事をついに読まなかったものと思われました。キャラ名がチャット内容とともに垂れ流しになっている点が問題であるものの、故意や悪意によるものではない、とその時点では判断しました。しかし、そのままにしておいてはルールが無意味になってしまいます。

主催間で対応について協議をしてから、めろさんがツイッターにてリプライをつける形で、配信者に動画の該当部分の削除のお願いをしました(2025年1月2日)

参加されたほかのみなさんには心苦しいのですけれど、主催としてできること・すべきことはここまでです。それからあとの顛末についてはノーコメントとさせていただきます。起こったことのあらましは以上です。

動画配信とユーザー間での同意をめぐって

問題は今後です。動画配信とどのような距離感で、エリン音楽ひろばを催せばいいのか悩んでいます。

動画配信禁止のユーザーイベントを(うっかりと、または悪意とともに)誰かが動画配信によってコンテンツ化している可能性について、もっと危機意識を持たないといけないことに気づかされました。

先にも取り上げた「マビノギ宣伝部」という仕組みが動き出してから最初のひろばの開催で、こういうことが起きた、というのは偶然ばかりではない気がします。

エリン音楽ひろばは、音楽の話題を中心に、みんなで質問や相談を出し合う交流系のイベントであり、各自のパーソナリティがおもてに出やすいぶん、そのやりとりの取扱いには、いっそう気を遣わなければなりません。念の為につけ加えますけれど、これは個人情報がどうのこうのという次元の話をしているのではありません。その種のプライバシーを発言してはならないのはいうまでもないことです。

発言はあくまで各人の責任ですから、参加者全員が「キャラ名掲載OK」「配信OK」に合意した上でひろばを開催することももちろん可能です。そうしていないのは、「安心」側に倒した主催の判断です。音楽好きのマビノギプレイヤーという共通項こそあれど、いろんなタイプの、いろんな背景を持つひとが集まります。仮に「はずかしい質問ですが」「初歩の初歩で申し訳ないんですが」などのようなエクスキューズとともに思い切って質問をしたひとが、後日どこかの記事にて「だれだれってやつがこんなことをいってた、笑える」などと晒し者にされているのを、もし見つけたとしたらどんな思いをするか。

内容に関する振り返りのコメントをどこかに書くのは問題ないのですけれど、名前とセットでの批判を公共の場で安易にするとろくなことになりません。名前は伏せて、とお願いしている意図を汲みとってもらって、あんまり立ち入った部分まで書くのはまずいかな、とバランスを取ってくれれば、という効果も多少期待しています。波風が立ちにくくなるよう、あらかじめ安心側に倒しているわけです。わたしやめろさんのまとめ記事でも、だれが発言したかについては注意を払ってすべて伏せる努力をしています。(仲のいいひと同士が了解済みの上で「きょうナニナニさんとエリン音楽ひろばに行ってきたよ」と投稿するくらいだったらなんの支障もありませんけれど、ここまではOK、これだとアウト、といちいち線引きするとルールが複雑になり、うまくいかなくなります。)

だから順番としては、動画配信がどうのというのよりも、キャラ名を伏せずに記事やスクリーンショットを載せたりされるのは望ましくない、という考えがまず先にあって、それなら動画配信も同じ意味でだめだね、というふうにルールを加えていったのです。正直、ひろばを始めたころのわたしは、ゲームの動画配信の実情についてまったく詳しくありませんでした。

閉鎖的にしたくてルールを設けたのではありません。まったく逆で、間口を広くしたいからこそ、穏健なルールを設けたのです。

定期演奏会の参加を主としたわたしの経験上、許可を得ていないならキャラ名は伏せるほうがいい、というのが無難な流儀として共有されているという認識がありました。


一方、配信者の立場からすれば、このイベントは配信不可、このたまり場は配信不可、などと勝手にテリトリーを設けられても、知るかそんなの、ということになるでしょう。これはゲームシステムのほうで利便性を上げてほしいところです。

マビノギには「配信推奨(禁止)チャンネル」を用意して棲み分けさせる仕組みもなければ、キャラ名の横に「配信中」を示すアイコンを出して周囲に知らせる機能もありません。ユーザー同士で仮に可否の合意が取れたとしても、あくまでお願いベースの話で、自キャラだけが出入りできるマップを除いて、他者の動画配信に映らないことが保証される場所は、どこにもありません。浪漫農場や月光島であっても、ほかのプレイヤーが出入りできる設定ならおなじことです。

ダンバートンの街角などで、まったく関係ない他者が通りすがりに偶然映り込む、ということは当然あるし問題にならない、というのは多くのひとが頷くと思うのですけれど、どこからが「勝手に映している」ことになるのか、曖昧です。ダンバートンで内輪なオープンチャットをしているひとたちは、自分たちのチャットが、関係ないだれかの配信にたまたま映り込んだままになっている、あるいは、その雑談自体に配信者が聞き耳を立てている、という可能性をどれくらい頭に入れているのでしょうか、そのへんがよくわかりません。「まさか、ね」と思っているひとも少なくないのではないかと想像します。

ソーシャルメディア的な遊びかた、つまりチャットしつつ半分放置、というようなスタンスのプレイヤーも多いせいか、ほかのオンラインゲームにくらべて、マビノギのプレイヤーには配信を嫌うひとが多い、という傾向があるかもしれません。仮にそうだとしてもそれが時代遅れなのかについては、ゲームシステムの違いを無視してああだこうだいっても仕方ありません。

運営の見解はどうでしょうか。ネクソンの(昔の)「著作権利用ガイドライン」に『キャラクター同士の会話を利用する場合は、それに関わるすべてのユーザーの了解を得てからインターネット上へ掲載することを強くお勧めいたします』『利用にかかるプレイヤー間のトラブルにはNEXONは関知できません』とあります。ユーザー間の合意のもと、うまくやってちょうだい、ということです。ほかにそれらしい規約的な記述が探し出せませんでした。

現状、ユーザー間で動画配信に関する意識、線引きについてどのくらい一致点があるのでしょうか。一例として、自由掲示板で「配信」で検索して見つかる、50件以上のコメントがついている荒れ気味のスレッドを読めば(2020年春:あまり良質な資料ではないですけれど)、おおよそ見当がつくでしょう。

そんな状況にもかかわらず、動画配信などの活動を促進する「マビノギ宣伝部」という仕組みをゲームの運営側が設け、特典まで用意しています。こうなるともう、自キャラが晒されるのはいやだなんていうナイーブな問題にとどまらず、端的にいって、わたしたちのおしゃべりが知らぬうちに、関係のないひとの利益の為に使われ始めている、ともいえます。

ユーザーイベントを主催している側からすれば、なんだかこれもおかしくないか? と気持ちが悪いのです。他人のふんどしで相撲を取るなら、なおさらイベント主催側に配信の許可を得る必要がある、と考えるのはおかしいでしょうか。「マビノギ宣伝部」のクリエイターにはオンラインの説明会があったそうですけれど、その内容、資料がどこで見られるのか、公式サイトを探したもののリンクが見つかりません。クリエイターたちの、とくに動画配信について、どこからどこまで許可されているか、どういう決まりがあるのか、こちら側がガイドラインを知ることができない状態にあります(わたしの見落としでなければ)。もし配信のルールが「『マビノギ』著作物利用ガイドライン」だけなのであれば、運営はユーザー間の合意に関する配慮がすっぽり抜け落ちているといわざるを得ません。

ちゃんとした配信者なら、ユーザーイベントを配信する場合、その可否について慎重に確認をとるものだ、と思い込んでいました。月光島ライブの場合は「OK」、ひろばの場合は「だめ」と事前に明記しておくことで、その手続きが要らなくなるようにしていたつもりでした。それを無視する「隠し撮り」は、いまに始まったことではないにしても、これから先、「配信はどこでも可、禁止するほうが勝手」という運営のお墨付きを得ていると強弁して、ローカルルールを一蹴するような配信者が増えていくおそれはあります。

「マビノギ宣伝部」にはサポーターシステムもあります。ユーザーイベントの主催者と配信者との間で仮になにか揉めごとが起きたら、ことによっては最悪の場合、配信者を支援するサポーターも一緒になって、イベントの主催者をいじめるという事態も充分考えられます。物事をよく調べも考えもしないで一方的にわーわー叩きのめすのは、いまや日常の光景でしょう。そして、運営側がそういう混乱に対処をするなりガイドラインを示して予防するなりしないのなら、運営側は一部ユーザーと結託してソーシャルメディアでのバズりを狙うことを優先し、ささやかなユーザーイベントが衰退することもやむなしとしているのではないか、と不信感を募らせざるを得なくなります。――と、さすがにすこし被害妄想ぎみでしたけれど、とにかくそれくらいに強い不安をいま抱いているということです。

オープンなユーザーイベントはすべて、どういうルールを設けていようと、「だれかによって配信されている」可能性のもとで、催したり参加したりするしかありません。従来もそうだったのだとしても、とくに「マビノギ宣伝部」の開始以降、動画配信と相性の合わないユーザーイベントは居場所がなくなる可能性が強まっている、と考えているところです。

次回からどう開催するか

これからのひろばをどうするか、いくつかの選択肢を考えています。

  1. 引き続き配信禁止。告知でももっと強調して、会の途中にもしつこくチャットで伝えて周知を徹底
  2. 引き続き配信禁止。だれも偶然に通りかからないような場所での開催に変更
  3. 広い共有を優先し、裾野をひろげる為にも、配信OKにして、キャラ名記載もOKに

まず1番目については、数分おきに配信禁止の旨を告げるのはめんどうだし虚しくなるし、会の雰囲気も息苦しくなります。でも、チャットで明言しているのに配信を続けていたら、視聴者から突っ込みや批判があるでしょうから、多少の抑止効果はあると思います。

逃避的な2番目は、まず浪漫農場や月光島が案として浮かびますけれど、とくに一見さんにとって入場のハードルが高い、というのは月光島ライブをやった経験からいっても間違いのないところで、さりとて入場をできるだけスムーズにするには主催側の負荷が増えてしまいます。ダンジョンに特定のアイテムを捧げて入場、というやりかたも同様のことがいえます。なにしろ陰気です(〈エリン音楽はかば〉になってしまいます)。ならば一般フィールドはどうか。交易の移動経路にもなり得ず、アルバイトや修練でうろうろするひともいず、なおかつ景色がよくアクセスもよいところとなると、ほとんど思いつきません。そもそも、期間限定のイベントNPCが突然配置されたら、過疎マップだろうとなんだろうと関係ありません。いまでさえ、ひろばの開催が近づくと、期間限定イベントが始まるメンテナンスの前後、ラフ王城前の庭に邪魔者が置かれないかと、毎度ひそかにハラハラしているのです。

わたしは、ラフ王城前の噴水のそばのいつもの場所に愛着があります。愛着が持てるだけのユーザーイベントをやってきたつもりでいます。この場所を選んだのは、景観とムーンゲートからのアクセスのよさと、「王城パーティのとき以外、こんなところ誰も用事ないだろう」という考えからでした。しかし、ここ数回の開催で、ペット騎乗で会場のそばを通ったり横切ったりするひとが目立って増えている印象です。クエストも育成もほぼしないので、哀しいことに一般ユーザーの行動の事情がわかりません。

それにしても、本来、ふらっと見つけて参加してみて演奏に興味を持ってもらって、という流れも期待して、出入りしやすい青空教室的な会場設定にしていたのに、負の要素がむしろ強まってしまったのは、つらい話です。

1にしても2にしても、これまでどおり「隠し撮り」は防げないということは理解していただくしかありません。今回の件は本当にたまたま見つけただけで、毎回毎回パトロールじみたことをして見つけたら削除依頼をする、なんて負担の大きなことをするわけがありません。

3番目は思い切った方針変更になります。参加者全員が動画配信に合意したものとしての開催です。全員、チャット内容にいっそう気をつけないといけないかわりに、主催にかかる負荷は増えずに済みます。キャラ名を伏せて記事を書いてね、というお願いも撤廃することになりますけれど、これまでエリン音楽ひろばを取り上げてくれたブログ記事がいくつあるのか、ツイッターなどで反響がいくつあったのか、と考えると……そのルールがあろうとなかろうと、たいして変わりないような気もしてしまいます。

しかし、意見交換や相談や交流が軸となるイベントで、傍観的なスタイルの配信者が会場のチャットに対して外野で一方的にコメントする、ということになると、やはり本来の趣旨にそぐわないところがあります。

配信をOKにすることが、これまでひろばをひいきにしていただいていたみなさんに支持されるのかどうか、そのあたりの温度感はわたしもめろさんも把握できていません。

次回まで時間があるから、しばらく主催同士で相談しつつ考えていきます。ひろばを愛するみなさんの御意見も募集します。めろさんのツイッター、あるいはわたしのディスコード、ブルースカイ、あるいはマビノギのゲーム内機能で連絡していただけたらありがたいです(なるべく返信しますけれど期待しないでください)

すでに本件(の顛末)は、ユーザーイベント界隈のほかのところにも波紋を及ぼしているらしいのですけれど、とくに定期演奏会、今後どうなっていくのでしょうか。それはともかく、丁寧に積み重ねてきた石が、こんな形で崩されようとは。なにに対して向けたらいいのかすらわからない、強い憤りがあります。