マビノギMML演奏音源の録音から公開まで

当サイトにたくさん載せている、オンラインRPG『マビノギ』で演奏した音源を、どのように用意しているのかを紹介します。こまかい記述が多めです。

もともと「マビノギMML演奏音源のつくりかた」というタイトルの文書でした。別の内容(MML講座とか、あるいはDLSファイルのカスタマイズ方法とか?)を期待して検索サイトからやってくるかたが、もしかして多いのかも、という疑念がわいてきたので、ミスリードしないように改題しました(2022年3月2日)

マビノギMMLや演奏システムについての説明記事は、マビノギMMLガイドのページからたどってください。

MML演奏の録音

当サイトに載せているマビノギMML演奏音源は、ゲーム内で実際に鳴らした音を録音したものです。MML作成ソフトから出力した音ではありません。MML作成ソフトとゲーム内とでは音質や仕様がすこし違います。

「Audacity」(バージョン2.3.2)というフリーソフトを使って、PCの再生音をWAV形式で保存するという形で、ゲーム内の演奏を録音しています。(2020年以前は「MooO ボイス録音機」(バージョン1.43)を使っていました。)

ゲームの環境設定で、演奏音ボリュームは最大にして、ふだんから不用意にいじらないようにしています。

合奏曲については、ひとりぶんずつ、つまり1本の譜面ごとに録音し、各録音をそのままミキシングして、擬似的な合奏音源としています。昔のサウンドクラウド投稿版はすべてそのようにしていました。のちに、必ずしもひとりずつではなく、2人から4人ぶん、まとめて合奏して録音することも増えました。64bit改変後の現在は、基本的に1本ずつモノラルで録音するようにしています。

(2024年2月18日追記:)当サイトで公開しているMML演奏音源の、録音時・ファイル保存時のサンプリング周波数は44.1kHzです。現在のマビノギで再生された音は、48kHz(の整数倍)で録音すれば毎回おなじ波形が得られ、44.1kHzだとおなじ音を録音しても微妙な誤差が生じます。ゲームの環境設定に再生デバイスに関する項目はありませんから、この振る舞いは変えられないと思います。

64bit改変前は、そもそも波形の再現性など望めませんでしたから、どのサンプリング周波数で録音すべきかなんて考えることもありませんでした。音質的な観点では、いまも昔も44.1kHzで充分です。

MMLの修正前・修正後の演奏を録音して、片方の波形を上下反転させてから両方をミックスし、出る音の違いをきれいに抽出したい、という職人肌なかたは、録音ソフト側の設定やデバイスの設定を48kHzにして録音するほうがよさそうに思います。当サイトで公開するMML演奏音源に関しては、作業工程を48kHzに切り替えることはいまさらしません。(:追記ここまで)

ミックスは、「Audacity」を使っています。ミックスといっても、作業としては、各トラックの位置合わせ、前後の無音部分のカットだけです。(ずっと昔は「VocalShifter LE」を使っていました。これは本来はピッチ補正ソフトですけれど、マルチトラック対応なので、ミキシング用途にしていました。)

ミックス作業時の、Audacityの画面のようす

注意:以下の記述は、2023年1月の64bitクライアントアップデート以前の古い話です。現在のやりかたについては後述しています。

位置合わせだけ、といってもけっこう手間取ります。同じ楽譜を演奏しても、その録音した波形をならべてみると、数ミリ秒くらいのずれが生じているのがわかります。だから、2テイクか3テイク、あるいはそれ以上を各譜面それぞれ録音しておいて、タイミングが終始いちばん合っているテイクを吟味するのです。合奏を一発で録るほうがよほど楽ですけれど、わたしひとりで大人数合奏はできません。(サウンドクラウドに投稿を始めたころのマビノギでは、合奏時の各楽器のタイミングずれに悩まされていました。ずれのない演奏音源を聴きたい、届けたい、という気持ちがあって、個別に録音してミックス処理をすることで、ぴたっとタイミングが合っている「模範音源」をつくっていたのでした。)

ミックス時にパンポットをいじって左右に音を振るのではなく、左右から音を鳴らしたものを録音してそのまま使います。「ゲーム内の演奏音の録音風景」の画像を使って説明してみます。

ゲーム内の演奏音の録音風景 © NEXON Korea Corporation and NEXON Co., Ltd.

(2024年2月18日:掲載画像をPNGファイルからJPEGファイルに差し替えました。画質以外はおなじ内容です。

真ん中に黒いシャツのキャラがいて、その後方左右にいる2人が合奏をしています。真ん中のキャラの位置からは、すこし左の定位の音と、すこし右の定位の音とが聞こえています。

音の左右の定位にはカメラアングルも影響しますから、いつも同じアングルにする為に「自動視点」モードを用います。つねに位置とアングルを画像のように一定にすることで、演奏キャラの立ち位置だけが、定位を決める要素になります。演奏キャラが録音キャラの真後ろに寄るほど、定位は中央に寄ります。逆に、真横の位置で鳴らせば、定位が左右に振り切れます。浪漫農場内に適当な目印を設置しておき、演奏キャラの位置取りに利用します。(画像の雪だるまや木の杭や電灯などがそれです。いまはもうすこしわかりやすくて貧乏くさくない設置物がいろいろ登場していますけれど、いまさら差し替えるとカンが狂うので。)位置はきちんとメモしておきます。ただし、この程度の目印では定位を厳密にコントロールできるわけではなく、あくまでも、おおまかなものです。また、中央定位で鳴らす場合は、録音者自身で演奏するか、録音者からおよそ半径1歩以内の距離で密着して演奏します。

画像では合奏をしていますけれど、前述のように、ソロ演奏を録音することが大半です。

ソロ演奏をする代わりに、作曲スキル使用時の再生機能を使うときもあります。その再生機能で鳴る定位は、直前に鳴っていた演奏音の定位を受け継ぎます。

64bit改変後

2023年1月の64bitクライアントアップデートによって、上記のやりかたをいくつか変えなければならなくなりました。

マビノギのアップデートによるMML演奏への影響のページに、64bit改変でどう変わったかについての詳細があります。

たとえば、前掲の「ゲーム内の演奏音の録音風景」のような立ち位置では、すべて中央定位になってしまいます。ある程度離れた距離でないと、左右に音が寄らないのです。演奏会などでも、合奏メンバーの左右の配置に気を遣う意味が薄れてしまいました。演奏音源をどうすべきか、いっそこれからはモノラルにしようか、ということも考えましたけれど、やはりステレオの音源を用意することにしました。

以前は、各パートをステレオで録音していましたけれど、それはもうやめてモノラルで取り扱うことにしました。ソロ演奏時と合奏時(ひとりパーティでの合奏含む)とで演奏結果が微妙に一致しないのは、自分以外だれも気にしないようなことなので、手間にならないようにソロ演奏(作曲スキルウィンドウでの再生なども含む)で録音することにしました。各パートでソロと合奏とが混在するのがいちばん不都合になるので、すべてソロ演奏で固定します(演奏パートナーと弾ける2人合奏曲のみ、いまのところ例外とします)。ミックス時に一部のトラックを左右に振ります。「Audacity」での手順でいうと、トラックを複製し、片方の音量を増幅、もう片方の音量を下げて、ふたつをステレオトラックとしてつなげます。ゲーム内での鳴りかたに準じて、両方あわせた音量(RMS値)がもとのモノラルと一致するような増幅値にします(「Audacity」のパンポットは片方が下がるだけなので、このような手順で代用)。聴き手と演奏者との位置関係を極端にしないと音が左右に大きく拡がらなくなっているので、それにあわせて演奏音源も、以前より左右の寄りかたをおとなしめに(中央寄りに)することが多くなりました。あと、左右の寄り具合がゲーム内でそのまま再現できるかどうかについては、もうこだわらないことにします。

また、同じ楽譜を同じ方法で演奏したものを録音して、波形をならべたときに、時間の伸び縮みがなくなりましたので、何度も録音してから良いのを選ぶ、という手間が解消されましたし、各パートのタイミングもぴったり揃います。

MML演奏音源のマスタリング

ここでいうマスタリングというのは、ミックス後の音声に、仕上げの処理とコンバートをすることを指します。MML演奏音源に限らず、一般的な音源ファイルづくりの手順と共通する話も含みます。

サウンドクラウドに載せている音源は、投稿をはじめる当時(2016年はじめの頃)にいろいろ考えた末、すこし音圧を上げる処理をほどこしていました。当サイト開設前に別のところで公開したことのあったMP3ファイルも、そういった処理をしたものがあります。

一方、当サイト内に直接置いているAAC形式の音源のマスタリングは、いろいろ考えた末、ピークをマイナス1dBFSに抑えるリミッターをかけるのみにしていて、ピーク部分以外は本来の音から変化しないようにしました。もちろん、そのあとの非可逆圧縮によって波形は変わっています。大半のミックス音源は、ピークがもともとマイナス1dBFSを下回っているので、リミッターの出番はそんなに多くありません。逆に、ミックスしてみて全体的に強いピークが多すぎることがわかったら、MMLの音量指定の微調整を検討することになります。

当サイト内に直接置いている音源より、サウンドクラウド投稿音源のほうが音が大きいのは、上記のマスタリングの違いが理由です。

エンコーダで圧縮音源化します。サウンドクラウド版で用いていたエンコーダは「aoTuV」。当サイトに置いているAAC形式の音源のエンコーダは「qaac」。再生ソフトの「foobar2000」のコンバート機能で、パパッとファイルを生成できるようにしています。サウンドクラウド版は、コンバート時に音圧上げなどの処理もふくめて一括でしていました。現在は「Audacity」で前述のリミッター処理をしたものを保存してから、圧縮音源へのコンバートだけをしています。

qaacを用いてのAACコンバート時のパラメータは、「True VBR」の「品質91」です。あまり品質を上げるとファイルサイズがかさばりますから、試聴用としてまったく問題のない音質の範囲で、なるべくサイズが小さくなるようなところを狙うと、このくらいが妥当なようでした。MML演奏音源に限らず、当サイトの掲載音源全般がこの設定です。コンバート後に、メタデータ(タグ)を入れて完成です。

サウンドクラウド投稿版のマスタリングについて少し触れると、2016年のころと、2019年や2020年のころとではいくらか設定が異なります。公開を始める当初、サウンドクラウドでどんなリスナーにどういうふうに受容されるのかが読めなかったので、本来の音をなるべく維持しつつも、「とりあえず」音圧をすこし上げることにして、慎重にパラメータを決めて、以降の作品もそのままの値でオートマティックにいくつもりでした。その後、波形編集に慣れてきていろいろわかってきたのと、考えが変わってきたのとで、1曲公開するたびに多少の試行錯誤をするようになり、たいへん手間取るはめになってしまいました。現在のやりかたはその反省も踏まえています。できるだけ本来の音のまま「なにもしない」に越したことはないのでした。