エリン音楽ひろば 2023年6月

オンラインRPG『マビノギ』で、2023年6月29日に開催したプレイヤーイベント「エリン音楽ひろば」の内容を載せています。

第11回、マリーサーバーです。主催は、羊野めろさんと、わたし(シラベル)です。

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内容のまとめ

内容は、羊野めろさんのブログ記事もあわせて参照してください。

出てきた話題・質問を以下に要約しています。当日に言及できなかったこともいくらか補足しました。このほか、テスト演奏が1曲、それから後述するひろばの〈イメージソング〉の披露もありました。

「楽しい」というテーマで作曲するとして、そういう気分や雰囲気になるコードや音階があるとおもうんですけど、定番の組み合わせを参考にしても、物語を感じるような展開がなかなかつくれずに詰まってしまう

いろいろ考えていたら長い文になりましたので、このあとの「内容の掘り下げ」の節に回しました。ミクソリディアンについては、ひろばで深く触れなかったから、音源つきで例を紹介します。

(シラベルとめろさんに)作詞コンテストの応募作で、作詞の際に心がけたこと、大事にした点はどんなことでしょうか

第2回「ぜんじおん Twitter 作詞作曲コンテスト」の作詞部門で、主催ふたりがダブル入選でした。わたしは「店のお好み焼き」の歌詞を応募しました。そのページに書いたことと、あえて書かなかったことを、ざっとお話ししました。めろさんのブログ記事もチェックしてみてください。

シラベルさんのサイトいつも見てます。コリモセーズ氏はシラベルさんとどういった間柄の方なんでしょうか?

中身は同一人物です。トップページの終わりのほうの「このサイトについて・サイト管理者について」の節を、よーくお読みください。わかりやすさが求められている21世紀の御時世に、名義なんかで謎かけするから、めんどうなことになるんですけれどしょうがない。もともとツイッターで《コリモセーズ/シラベル》という名前でアカウントをつくったから、行きがかり上、こういう名義でやっています。《シラベル》だけでは99パーセント「調べる」だと思われてしまうので。

シラベルさんとめろさんの対談本とかファンブックは、いつ出るんでしょうか?

えーっ、ほしいの?……たぶん出ません。

この直前にCDの話も出たのですけれど、デジタルデータでなく紙の本やCDやコースターやロゴ入りTシャツのような物理媒体を頒布するというのは、わたしにとって、いまのところ現実味がありません。しかし、デジタルデータでは落ち着かないという声もあります。今後いつかは検討しないといけないかもしれません。

みなさんが最近よく聴くよーって曲が知りたいですね

それぞれの近況が窺い知れるような答えがいろいろ返ってきました。わたしももっと未知の音楽をたくさん聴かないとだめですね。でも、落語だって音楽、英語のナレーションだって音楽、雨音だって音楽。そういう意味では、わたしもいろいろ聴いてます、ということで……。

今回は、とりわけ後半が「ファンの集い」みたいになってしまったのが反省点でした。ああいう展開になったときにしっかりコントロールできないと、会が身内に閉じてしまって縮小していくばかりです。個人としてはありがたくもある反面、主催としてはもうすこし考えないといけません。

イメージソング

前回のひろばでめろさんが弾いたBGM曲を、参加者のカフィモカさんがふくらませて歌詞をつけた「エリン音楽ひろばに行こうよ」が披露されました。

画像1:「エリン音楽ひろばに行こうよ」の披露

画像1、演奏時のようすです。1級譜面だったので、わたしの演奏があらぶりモーションになってしまいましたけれど、幸いにも写りが小さいからあまり見えません(これしか画像がなかったんです)

動画も公開されています。ボーカルシンセサイザー「NEUTRINO」を用いた歌パートをつけた音源で、画面は「MabiIcco」のピアノロールです。歌詞もあわせて掲載されています。

主催者にちなむキーワードをちりばめた歌詞になっています。曲調とあいまって、ほっこりする感じがします。「そんなのナインス どこかにアルペジオ」の一節がわたしにはツボです。ありがたやありがたや。このように愛されているひろばを自らの手で汚すことのないよう、しっかり取り組まないといけないなと思います。

スクリーンショット集

画像2:オープニング演奏

オープニング曲そのほか、ひろばで毎回使う曲は、64bit改変後にあわせた修正が済んで、当サイト内のページにもひととおり反映させました。ほかの曲のMMLはまだまだ……。

画像3:休憩中

前回から、中盤に5分少々の休憩時間を入れています。わたしとめろさんが交代でBGMを弾いて、その間に離席するなどしています。

画像4:質問相談コーナー

今回は、大勢来てもらえそうな材料も見当たらず、あまり集まらないだろうなと覚悟していました。でも、22時以降には、画像4のような感じでいつもくらいの人数になっていました。

画像5:記念撮影

23時45分ごろ、閉会時の記念撮影です。みなさんありがとうございました。

内容の掘り下げ

曲づくりに関する質問についての、当日のやりとりも踏まえたエッセイです。実例音源もひとつ載せました。


定番のコード進行をもとに作曲してみたものの、ただつくっただけだなという感じがしたり、ぎこちなかったり、つまらなかったり、というようなことは往々にしてあります。とくに、理論的なことを学びはじめのころは、そんなものだと思います。

たくさんの曲を聴いて、分析して、まねしてつくって、の繰り返しを(楽しみながら)続ければ、そのうちうまくつくれる割合が上がってくるはず、というのがわたし自身の経験上の平凡な答えです。

おなじメロディ、おなじコード進行であっても、タタ、タタ、タン、というリズムから、タッタ、タッタ、タン、というハネるリズムに変えるだけで、印象が変わりますし、ハネるリズムのほうが「楽しい」感じになりやすい。ですので、リズムのほうにむしろ注目して、いろいろ取り組んでみるのもいいかもしれません。

ところで、蝉の鳴き声に夏の叙情を感じるひともいれば、ただの騒音にしか聞こえないひともいます。どういう文化を背景にして育ったかによって、どういう種類の音楽に喜怒哀楽を強く感じるかも違ってくるでしょうし、もっといえば、時代・世代・地域ごとの文化によって、音楽のありようも影響を受ける(あるいは狭められてしまう)のではないでしょうか。

タイムマシンで中世の西洋に行って、エレキギターの歪んだ音を宮廷音楽家に聴かせたなら、どれほどうまい演奏であっても、耳障りな雑音だといわれることでしょう。もっと限定的な例を挙げれば、フュージョン系の演奏を聴くと、スポーツ番組やスポーツゲームを聯想したり、ある種のケルト系音楽を聴くと、剣と魔法の西洋ファンタジーを思い起こす、というひとはわりといると思います。こういう刷り込みがたくさん積み重なっています。逆にいえば、このような刷り込みをつくり手は「利用」して、聴き手の気分をある程度コントロールできるでしょうし、とくにBGM素材の作者にとっては、そうせざるを得ません。

そういう意味でも、「まねしてつくる」ことを重ねていくのが早道だと思います。楽しい曲がつくりたいときは、自分が楽しいと感じた曲を手本にするわけです。(もちろん、そういう記号的な音楽の使いかたに厭気がさしたり興味がなかったりで、道なき道を往こうとする音楽家もいるのです。)

さて、ひろばではいくつかコメントが挙がりました。「つくりたい物語に合った調を選択する」ことから始める、という話もありました。この「調ごとの雰囲気」の話については(これも文化的なものというべきでしょうか)、また改めて話題に出せたらいいなと思います。


ミクソリディアンという言葉もちらっと出ていたので、ここで補足のつもりで取り上げます。ミクソリディアンというのは、(移動ド記法で)〈ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ♭〉の音階(による旋法)です。長音階(メジャー・スケール)の7音目〈シ〉がフラットになるもの、と覚えるのが便利です。

ミクソリディアンを使えば楽しくなる、なんて魔法みたいな話はもちろんありませんけれど、たしかに手がかりのひとつになるかもしれません。ここでは実例の音源に即して紹介することにします。

「ミクソリディアンのエレキソロ・2023-07-06」は、〈C―B♭/C―C―B♭/C〉のコード進行に、エレキギターでメロディを乗っけたものです。この音源は試作音源いろいろのページにも載せました。(これも、もしエレキも全部打ち込みだったら、ただつくっただけだなという感じの曲ですね。分析してまねしてつくる、という例でもあります。)

ミクソリディアンのエレキソロ・2023-07-06.m4a[AAC]

聴いていただくとなんとなくわかる……かどうか疑わしいですけれど、まあとにかく、どちらかというと活発さや力強さ、あるいは楽天的な感じが出しやすいようです。

なにがどうなっているのか、理窟をこまごまと説明すると(以下、固定ド記法)、主音がCの(つまり〈ド〉の)Cメジャーキー(ハ長調)のなかで、ふつうのCメジャー・スケール〈ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ〉ではなく、Cミクソリディアン〈ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ♭〉を使っています。コード進行は〈C―B♭―C―B♭〉を繰り返すパターン(の変形)です。〈C〉コードの構成音は〈ド・ミ・ソ〉で、〈B♭〉コードは〈シ♭・レ・ファ〉です。仮にたとえば〈G〉コードが絡んでくると、構成音が〈ソ・シ・レ〉なので、ミクソリディアンの〈シ♭〉とかみ合いません。(こういうコード進行だからミクソリディアンを選んだ、あるいは、ミクソリディアンを使うからこういうコード進行になった、どちらの考えかたもできます。)

もし、これがFメジャーキー(ヘ長調)だったら、もともとFメジャー・スケール〈ファ・ソ・ラ・シ♭・ド・レ・ミ〉に〈シ♭〉があって、べつになんの変哲もないんですけれど、あくまでもCメジャーキーのなかで〈シ♭〉を使っているわけです。――このあたりを踏み込んできちんと説明しようとすると厄介で、ちょっと手に余ります。

さらに、これはミクソリディアンの件と関係ありませんけれど、コードが変わろうと構わずおなじベース音にすると、ワクワク感が増すことがあります。それで〈C―B♭/C―C―B♭/C〉というように、ベース音を〈ド〉で固定してみました。(〈C〉を〈C7〉に置き換えて捉えてもいいです。〈C7〉の構成音は〈ド・ミ・ソ・シ♭〉。)こういう感じのコード進行(とミクソリディアン)をイントロなどに使った有名曲もいろいろあります(例:ミッシェル・ポルナレフの「シェリーに口づけ」)

「ミクソリディアンのエレキソロ・2023-07-06」のようなロック系なら、メロディやコードの〈シ〉がフラットするのは「ブルー・ノート」に由来するもの、と解釈できます。実際そのつもりで弾いています。だから、こういうのをことさらに、中世の教会旋法である「ミクソリディアン」の名前で説明するのは、収まりが悪いところがあります。一方、たとえばケルト系の古い民謡(に影響を受けた曲)だったらば、ちょうどいい説明のしかたでしょう。でも、ジャンルの混じりあいが極まって久しいいま、これはナニナニ由来だからナニナニだ、なんていちいち紐解くのも厄介です。それで、形だけ見て杓子定規に、これはミクソリディアンだとかこれはドリアンだとかいうわけなのでしょうけれど、それもよしあしかもしれませんね。役に立つ理論には乱暴なところがあり、精確な理論には学習のめんどうさがあります。