当サイトの記事向けの音楽用語集

当サイトの記事には、音楽関係の用語がよく出てきます。あまり専門的にならないように配慮していますけれど、いい換えをしたり注釈を入れたりすると、かえってくだくだしくなる場合もあるので、重要な用語・書きかたについて、このページにまとめます。

用法が広かったりあいまいだったりする言葉もあるから、こういう意味・こういう認識でわたしはこの言葉を使っています、あるいは使いません、ということを明らかにしておくのも目的です。網羅的な音楽用語集や楽典ではありません。

音名表記

当サイトの記事で、音の高さやメロディについて〈ドレミファソラシ〉と書くときは、ことわりのない限り、すべて音名表記、いわゆる「固定ド」記法です。

「固定ド」記法というのは、ハ長調で〈ドレドシド〉というメロディがあるとして、それをたとえばト長調に移調したら〈ソラソファ♯ソ〉とする書きかたです。どのように移調してもつねに〈ドレドシド〉とするものは、「移動ド」記法という階名表記です。

英語の「CDEFGAB」、日本語の「ハニホヘトイロ」は、音名表記用です。一方、「ドレミファソラシ」は、階名表記にも音名表記にも使われるので、どちらの意味で使っているのか明確にしておくほうがいいのです。

それと、当サイトでの表記方針として(厳密なルールではないのですけれど)、音名を表わしていることを目立たせる為、山かっこで〈ドレミ〉というふうに記します。かぎかっこを使っている箇所もたまにあります。いろいろ加筆修正していくにつれて、表記が固まったり変わったりすると思います。

音程、音高、音階

「音程」とは、ふたつの音の、高さの隔たりのことです。「3度下」とか「5度上」とかのように「度数」を用いて表わすことが多いのですけれど、度数についてここでは説明しません。

平均律の〈ドレミファソラシド〉の、隣り合う2音の音程は、全音・半音の2種類だけです。〈ミファ〉と〈シド〉が半音です。半音ふたつぶんの音程が全音です。「全音上」というかわりに「1音上」ということもあります。

「音高」とは、ほかの音にかかわりなく測れる、その音の高さのことです。ドレミで表わしたり、Hz(ヘルツ)という単位を使って周波数で表わしたりします。「ピッチ」も音高とおなじ意味です。わたしの感覚だと、音高というときは、ドレミでどれに相当するか、という意味が強く、ピッチというときは、より微妙な高さの違いに注目しているときに使う傾向があります。とくに、MMLやMIDIに関する話で、音符のドレミについて指すときは、発音時の音高と区別して「音符の高さ」のように書くことがあります。それはさておき、一般的には、「ピッチを日本語でいうなら、音高」というふうに捉えればいいと思います。もっと素朴に「音の高さ」という言葉でもいいですし。

しかし、音高(やピッチ)のことも「音程」と呼ぶひとが、プロ・アマ問わず大多数なので、混乱のもとになっていると思います。

たとえば、〈ソラソラ〉というメロディを唄ったつもりで、〈ソシ♭ソシ♭〉に近い高さになってしまったとき、〈ソ〉と〈ラ〉との間隔(1音)がちゃんと表現できず、半音広い間隔(1音半)になってしまったと捉えれば、「音程が悪い」といういいかたができますし、〈ラ〉の高さが出したかったのにちょっと上ずって〈シ♭〉になっているという捉えかただと、「ピッチが悪い」という言葉になるでしょう。こういう場面で「音程」という言葉が使われていくうちに、意味がやや拡散していって、望ましい音の高さよりすこし違う高さで鳴っていることをなんでもかんでも「音程が悪い」「音程がずれている」と呼ぶ傾向になったのだろうと思います。多くの場合は、「ピッチが悪い」というほうが正確で確実です。

「音程って呼んでそれで通じてるんだから、べつにいいじゃないの、言葉は移り変わるものだよ」といわれたら、まあそうですね、と受け流しますけれど、とにかくわたしはこういう認識のもと、「音高」という言葉を記事でけっこう多用しています。

ついでに書くと、音高(や音程)の意味で「音階」という言葉が誤用されることもあるようです(「高い音階が出ない」など)。〈ドレミファソラシ〉や〈ラシドレミファソ〉、あるいは〈ミファラシレ〉などのように、その曲でおもに使うことになる音を、1オクターブ内で順番にならべたものが音階です。

もうひとつついでに書くと、「キー」というのは「ハ長調」とか「イ短調」とかの「調」のことです。カラオケなどで移調することを「キーを上げる」「キーを下げる」といいます。オリジナルの音源の調のまま移調していない場合が「原曲キー」となります。自分の声の音域には高すぎて唄えないというときに、「ちょっとこの曲キーが高いから下げるわ」なんていうひとも多いと思いますけれど、「ハ長調」が高い・低いとはいわない、というのと同様に、「キー」そのものが高い・低い、ということもありません。「高いキーが出ない」というのはもっと妙な用法です(後述の「ノート」(鍵盤)の意味での「キー」なのでしょうか)。音域が高い、とか便利な言葉がなにかほかに広まればいいですけれど。

オクターブ

「オクターブ」というのは、音程を表わす言葉のひとつです。

ピアノの白い鍵盤を左から順番に〈ドレミファソラシド〉と弾いたとしましょう。はじめの〈ド〉とおわりの〈ド〉は高さが違います。周波数でいうと、はじめの〈ド〉を2倍の高さにすると、おわりの〈ド〉になります。この音程が1オクターブです。

どちらも「ド」と書くと高さの違いがわかりませんから、記法を工夫して、たとえば「ハニホヘトイロ」なら「一点ハ」「二点ハ」というように区別するのですけれど、よく使われているのは、〈ドレミファソラシ〉の範囲をグループ化して、「オクターブ番号」をつけて区別するやりかたです。

たとえば、〈ドレミファソラシド〉のひとつ目の〈ド〉がオクターブ番号4なら、つぎの〈ド〉はオクターブ番号5になります。オクターブ番号を付すことで「ド4」「ド5」と区別できるわけです。一般的には、これをアルファベットで「C4」「C5」と表記します。もちろん、〈ド〉以外もおなじように「D4」「G5」「B♭3」などというふうに表わします。C4以上の音の高さでなおかつ1オクターブより狭い音程内におさまる音は、すべてオクターブ番号4に属します。

ちなみに、周波数440Hzの音をオクターブ4のラ、つまり「A4」と定義するのが一般的です。(メーカーや製品によって「A3」だったり「A5」だったりもします。)

「おなじオクターブ番号の音」を、ざっくりと「おなじオクターブの音」といったり、また、「オクターブ番号を1上げる」ことを「オクターブを1上げる」といったりすることもあります。たとえば、MMLで〈>〉や〈<〉は、それぞれ「オクターブ番号を1上げる」「オクターブ番号を1下げる」(MMLの種類によっては定義が逆のときもあります)というコマンドですけれど、実際には「1オクターブ上げる」「1オクターブ下げる」というふうに説明されることがほとんどです。慣れているひとほど意識しないことですけれど、初学者には混乱のもとになるのではと思います。そういうわけで、ちょっとくどくどと説明をしてみました。

「オクターブ」はあくまで、同じ音名で違う高さの2音間の音程を表わす言葉で、「オクターブ番号」と混同しないように理解しておくとよさそうに思います。

ちなみに、同じ高さの音どうしの音程は「ユニゾン」といいます。おなじ音色なら、同時に鳴らしたときにユニゾンなのか1オクターブの差があるのか、比較的わかりやすいと思いますけれど、まったく違う音色(男女で斉唱するなど)だと、ユニゾンなのか1オクターブの差があるのか、わかりにくいこともあります。

移調、転調

「移調」とは、曲全体の音符の音高を、あらかじめ同じだけ上げるか下げるかすることです。歌声や楽器の都合によって、演奏しやすくするときなどに移調をします。それぞれの音符の音程関係はそのまま変わりません。先述したように、カラオケが好きなひとにもなじみが深いはず。

「転調」とは、曲の途中でほかの調に切り替わることです。こちらは作曲時の手法です。曲展開に起伏をつけたいときによく使います。平行調(たとえばハ長調とイ短調)を行き来するようなさりげないパターンもあれば、歌謡曲の最後近くで「サビを半音上げる」ときのような派手なパターンもあります。

ノートオン、ノートオフ

「ノート」というのは、音符のことです。鍵盤楽器の鍵の意味も持ちます。

「ノートオン」「ノートオフ」はMIDIの用語です。鍵盤楽器でいえば、鍵を押した瞬間に「ノートオン」の信号が送られ、鍵を離した瞬間に「ノートオフ」の信号が送られます。平たくいうと、音符の始まりがノートオンで、音符の終わりがノートオフです。音符といっても、五線譜のそれではなく、あくまでMIDIデータの音符(ピアノロール型シーケンサーならバーで表示されるもの)のことです。五線譜では8分音符で書かれていても、実際の演奏では、8分音符の長さぎりぎりまで鍵を押さえるとは限りません。もっと軽やかにタンタンタンッ、と弾いたり、つぎの音符にちょっと重ねるくらいまで伸ばしたりいろいろです。それをMIDIデータで再現するなら、鍵を押さえている長さそのままで音符を配置するわけです(実際には、ダンパーペダルなど、別の信号を利用して音を伸ばしたりもします)

「ノートオン」「ノートオフ」は、それぞれ「キーオン」「キーオフ」と呼ばれることもあるようです。鍵盤楽器を前提にした言葉でしょうか。

アタック、リリース、エンベロープ

シンセサイザーで音づくりをするとき、いろいろなパラメータを設定します。重要なパラメータに、アタック、ディケイ、サステイン、リリースがあります。これらの頭文字を取ってADSRとまとめて呼ぶこともあります。ADSRエンベロープの説明図を載せます。

ADSRエンベロープの説明図

DTMやシンセサイザーについて学んでいるひとが、必ずどこかで見ることになる図です。

ここでいう「エンベロープ」とは、時間経過に応じた音量の変化を表わした線のことです。この変化を生成するエフェクターを、エンベロープ・ジェネレーターといいます。

音量にかぎらず、音高やフィルターの強さなど、ほかの量を変化させられるエンベロープ・ジェネレーターもあります。ここでは音量の話として進めます。

発音してから音が消えるまでの時間を4つに区分します。それぞれの説明を書きます。

アタック
ノートオンから、音量が最大になるまでの区間。立ち上がり。
ディケイ
音量が最大になってから、サステインの音量になるまでの区間。減衰。
サステイン
ノートオフになるまで持続される音量(またはその持続する区間)。
リリース
ノートオフになってから音量がゼロになるまでの区間。余韻。

サステイン以外は、時間の長さが値になります(よりはっきり指したいときは、アタックタイム、ディケイタイム、サステインレベル、リリースタイムというふうに呼びます)。アタックとリリースは、(変化が一瞬でもゆっくりでも)必須の値です。ディケイやサステインは、ない場合もあります。たとえば、ピアノやアコースティックギター、ドラムやパーカッションなどを模した音色は、サステインがなくて、ノートオフにならなくてもやがて音量がゼロになるのが自然です。

オルガンや笛などを模した音色なら、サステインレベルを充分な高さにしておき、波形の一定範囲をループさせます。これで、鍵を押している間、ずっと音が鳴り続けるわけです。当サイトの記事で「持続音」「持続タイプの音色」のように書いている場合は、サステインが設定されている音色を指しています。

シンセパッドやストリングスのような音色をつくるときは、アタックをゆっくりめに設定して、ふわっと立ち上がる感じにします。

リリースは、たとえば64分音符のような短い音符を鳴らすと設定の効果がわかりやすいでしょう。リリースが短い音色なら、ポッ、ポッ、と歯切れよく、逆にリリースが長い音色で鳴らすと、ポォン、ポォン、と尾を引く響きになります。

前掲図は、あくまで説明用ですからデフォルメしています。実際の変化のしかたは直線とは限りません。また、エフェクターによっては、アタックの次が「ホールド」になっていたり、いろいろなバリエーションがあります。

シンセサイザー用語ではありますけれど、このADSRエンベロープについて知っておくと、一般の楽器の音色について、特徴を説明したり考えたりするときに便利です。

アタックやリリースは、ほかのエフェクトでも設定値としてよく出てきます。エフェクトがかかる閾値(スレショルド)を超えた瞬間から実際に効果がはたらくまでの時間がアタックで、閾値を下回ってから効果がオフになるまでの時間がリリースです。

ディケイの和訳は「減衰」でいいでしょうけれど、リリースの音も同じく減衰しているには違いありません。このページをつくるまでは、当サイトの記事で「リリース」という用語を持ち出すかわりに「減衰」という言葉をあちこちで使っていたので、どうしようかなといったところです。「余韻」というのも実のところちょっとしっくりこないのです。「残響」だとリバーブのことになってしまいます。

メロディ、フレーズ、音型、リフ

「メロディ」・「旋律」とは、高低やリズムを伴った、楽音(高さをドレミとして感じ取れる音)の時間的な連なりのことです。(対して、おなじ時間上での音の重なりが「和音」です。)とくに「曲を特徴づける」連なりに限定して指します。多くの場合は「単音同士の」連なりについていいますけれど、そうでない場合もあります。

「フレーズ」は、音の時間的な連なりを構成する(短い)ひとまとまりを指します。(小節単位で区切って楽曲構造を分析するときの用語としても使われ、その場合、日本語で「楽句」ともいいます。さらに切り分けた最小単位を「モチーフ」・「動機」といいます。)

「メロディ」に近い意味で「フレーズ」という場合、「曲を特徴づける」などの要件は問わず、たとえばベースが(和音の一部として)鳴らす〈ドドドドドドドド〉というような連なり、ピアノで弾く和音の単純な連なり、ドラムやパーカッションを叩いて発する(楽音とは限らない)音の連なり、ラップや朗読やただの絶叫などのひとまとまりも指せます。専門用語ではなく日常語として、ほかに適当な言葉がないときによく使います。

数秒くらいの曲であれば、ひとつのフレーズが全体を指すこともあります。でも、あまり長いまとまりをフレーズと呼ぶことはありません。一方、メロディの一部分を指すときにもメロディと呼ぶことがあります。

「メイン・メロディ」・「主旋律」は、曲のなかで主役を担うメロディを指します。脇役となる伴奏にも、メロディと捉えられる要素が現れることが多々あるので、それらと区別する言葉です。伴奏のなかに(あるいは伴奏とは別の位置づけとして)現れるメロディを指す用語としては「カウンター・メロディ」「オブリガート」「対旋律」「副旋律」などがあります。

「メイン・メロディ」だと長ったらしいというのもあって、「主旋律」という言葉をわたしはおもに使います。一方、「メロディ」を「旋律」と書くことは少なめです。(ちなみに、単音の連なりだけで演奏する形式を「モノフォニー」・「単旋律」と呼びますけれど、それは「単旋律」と書いています。なんだか統一感がないですけれど、しっくりくる書きかたを自然に選んでいます。)

歌ものの間奏で、伴奏を担っていた楽器がメロディを弾く場合、そのフレーズがどれだけ前面にぐっと出てきて目立っていても、主旋律と呼ばれることはそんなに多くないようです。間奏のメロディとか間奏のフレーズとか呼んで済ませることが多いかもしれません。

ベースのパートは、和音のなかの重要な音をおもに受け持つ役目があり、メロディとは別の位置づけがされます。ベースで鳴らすフレーズを「ベース・ライン」と呼ぶことがあります。ベースも、主旋律の間隙を縫うようにちょっと目立つ音の動き(オブリガート)を入れることもあり、その部分はメロディの一種と見なすことができます。ジャズではベースがよくソロ演奏をします。だから、ベースがメロディをまったく弾かないというわけではありません。

「メロディ・ライン」という言葉がありますけれど、「メロディ」とどう使い分けがされているのか、正直よくわかりません。「黄」も「黄色」も意味に違いがないのと同様に、それらもほぼおなじものを指している気がします。ただ、「メロディを受け持つパート」のことをおおざっぱに指すとき、「メロディ」と呼ぶことはあっても「メロディ・ライン」とは呼びません。「黄色」が「色」であることを強調しているように、「音の動きのかたち」にのみ注目しているという意味を含めて「ライン」という語句を付すのだろうと思います(「ベース・ライン」などのいいかたも同様)

「ベース・ライン」という言葉は、ほかにいい言葉がないのでときどき使いますけれど、「メロディ・ライン」のほうは「メロディ」といい換えても意味が変わらないような用法しか見たことがなく、いまのところ記事のなかで使ってもいません。

「音型」は、(リズム・高低・強弱に共通点のある)パターンごとにフレーズを分割した場合の、ひとまとまりを指します。「フレーズ」より指す範囲がぐっと狭くなります。〈ドレミーミファソーソラシー〉というメロディがあるとすると、〈ドレミー〉と〈ミファソー〉と〈ソラシー〉に分割できます。これらは、音高そのものはそれぞれ違いますけれど、いずれも、上に向かって音が連なっているという点でも、〈タタター〉というリズムの点でも、パターンが共通しています。「おなじ音型を畳みかけることで、次なる盛り上がりに向かって効果的になんとかかんとか……」というふうに使う、分析的な文脈での用語です。「音形」とも書くようです。英語では「フィギュア」なので「型」より「形」を充てるのがいいのかとも迷いますけれど、音の形、というと「まるい音」「鋭く尖った音」というように音色の性質を先に想起してしまう気もします。

「メロディ」に関係の近い言葉はほかにもあります。たとえば「リフ」。反復によって成り立っている短いフレーズ、音型を、ジャズやロック系のジャンルでリフと呼びます。エレキが延々と伴奏するリフのほうが耳に残り、リードボーカルがどう唄っていたか覚えていない、というような曲も多数あるでしょう。その場合、いったいどちらが主旋律なんだ、と呼びかたに悩みます。主旋律と伴奏、という分けかたで杓子定規にすべてを語るべからず、ということですね。

[ふし]」は、メロディの意味としてもフレーズの意味としても用いられる言葉で、多くの場合は(歌の)主旋律を指す印象があります。

「調べ」という言葉は、メロディを指すというより、調性をふくめ、もうすこし全体的な響き、感じについて指す言葉のようです。わたし《シラベル》のネーミングの由来のひとつです。

コード、コード進行

「コード」(chord)とは、和音のことです。(当サイトでプログラムコード(code)に言及することはそんなにないし、そっちの意味なら「プログラムコード」などと書くようにします。)和音とは、高さの異なるふたつ以上の音が同時に鳴って合わさった音のことです。

コードと呼ぶときは、おもに3音以上の特定の重なりについて指すことが多いようです。〈ドミ〉や〈ソシ♭〉などのような2音の和音を「複音」と呼んで区別することもあります。

特定の重なりを「コードネーム」で表わします。和音のなかでいちばん大事な「根音」と、それ以外の構成音の形態とを示した記号です。「C」と書くとCメジャーコード(〈ドミソ〉)を表わし、「Dm」と書くとDマイナーコード(〈レファラ〉)を表わします。「G7」はGセブンス、「Am7」はAマイナーセブンスです。ほかにもたくさんありますけれど、用語集なので詳しい話は省きます。

「コード進行」とは、その和音の連なり、一連の流れのことです。「和声」「ハーモニー」ともいいます(言葉の使われる文脈、指す範囲はそれぞれで違うようです)。コード進行の解説だけで本が1冊書けるような奥深いものなので、学びたいひとは、信頼できる書籍やウェブ上の記事を繰り返し参照するといいでしょう。当サイトにその種の独立した記事はありませんけれど、つくり手・弾き手視点で読んでいるかた向けに、たまに楽曲紹介ページで、この曲のコード進行は……などと言及することがあります。ほか、エリン音楽ひろば 2023年4月のページ内の一節のように、解説記事めいた文章も載せていないわけではないのですけれど、餅は餅屋ですから、あまりあてにしないでください(ちょっと逃げ腰)

当サイトの記事で〈C―Am―Dm―G〉と書いている場合、1小節目がC、2小節目がAm、3小節目がDm、4小節目がG、という意味になります。あるいは2・4・6・8小節目、の場合もあるかもしれませんけれど、コード進行としては区別しません。1小節目と2小節目がC、3小節目がF、4小節目がGなら、〈C―C―F―G〉と書きます。1小節のなかでコードが変わる場合もあるから、適宜わかりやすくなるようになるべく書きます。

ABCで記すかわりに、〈Ⅳ―Ⅴ―Ⅲm―Ⅵm〉というようにローマ数字で表わすこともあります。演奏よりも分析の用途で使われる書きかたです。くわしい話は省きますけれど、「音名表記」の節で触れた「固定ド」「移動ド」記法になぞらえれば、〈F―G―Em―Am〉が固定ド記法みたいなもので、〈Ⅳ―Ⅴ―Ⅲm―Ⅵm〉が移動ド記法のようなものです。移調しても〈Ⅳ―Ⅴ―Ⅲm―Ⅵm〉はそのまま変わりません。

ギターコード? ピアノコード?

当サイトで使わない、不正確な言葉ですけれど、どうもひっかかるところがあるので、補足のつもりでこの項を立てました。

「ギターコード」というキーワードでウェブ検索すると、その言葉を冠したたくさんの記事や書籍があるのが確認できます。「ピアノコード」や「ウクレレコード」なども同様にけっこう見つかります。

特定の和音の弾きかた(指の押さえる形)を示した図を「コード・ダイアグラム」といいます。ギター用の「ギター・コード・ダイアグラム」なら、指板のどの位置を押弦すればよいか、どの弦を鳴らしてはいけないか、といったことがひと目でわかるようになっています(次の画像がその一例)。親切なダイアグラムなら、どの指で押さえるかも書き込まれています。

ギター・コード・ダイアグラム:Cメジャーコード

また、いろんなギター・コード・ダイアグラムを一覧にまとめたものは「ギター・コード表」と呼ばれます。

有名曲(とかシラベルの作品とか)をギターで弾き語りしたいというときに、コードネームとダイアグラムが書かれている楽譜があれば、練習に役立ちます。

「ギター」の「コード・ダイアグラム」であって、「ギターコード」の「ダイアグラム」ではありません。

ということで本題。どうも、「ギター・コード表」とか「ギター・コード・ダイアグラム」とかのうしろの言葉が端折られて、略されているうちに(あるいはなにか別の原因で)、「ギター・コード」がなにか特別なもののようにひとり歩きしてしまっているようなのです。

入門レベルのギター教則本の類で、演奏が簡単なコードから順に「コードを覚える」「コードを押さえる」ことを促されるので、「コード」が、前掲の画像のようなダイアグラムのこと、あるいはそれが示す押弦のしかた(フォーム)のことを指すように思ってしまうのは、無理からぬことだと思えます。そこへもってきて「ギターコード」といういいかたを耳にしてしまうと、言葉の対応関係がどんどんあやふやになっていって……というようなことでしょうか、推測ですけれど。まあ、こういうことをやかましくいうのは、「鍋を食べる」といわずに「鍋料理を食べる」といいなさい、と目くじらを立てるようなものかもしれません。

でも、さすがにこれは用法の混乱だなと思うのは、ただのコードネームのことも含めて、ギターコードやピアノコードというふうに呼んでいるような例です。

たとえば「ギターコードをピアノコードに変換する」というような文を見て、どういうこと、と頭を抱えてしまいました。もしかしたら、「ギター向けのコード譜に記されているコードネームをもとに、ピアノ・コード・ダイアグラムまたはピアノ向け五線譜をつくる」という状況を指しているのかもしれません。

べつの解釈をするなら、「ギターで弾いたときのコードの鳴りかた(3本から6本の弦で表現できる音高の構成)を再現していたMIDIデータをアレンジして、ピアノで弾いたときのそれ(両手の運指に無理が生じないような音高の構成)になるように打ち込み直す」という状況など、そのあたりのことでしょうか。なんにせよ、よくわからない言葉だなと思います。

また、五線譜を使うことが多いピアノに比べると、ギターの場合、コードネームを頼りに伴奏を弾くことが多いので、「コード」や「コードネーム」がギターに関係するもの、ギター用のもの、と思われがちなのかもしれません。

ギターであれピアノであれ、ウクレレでもハーモニカでも合唱でも、コード(和音)は共通する概念です。ギターならではの(ピアノ類では出せない)コードの響きというのはあっても、ギター用のコードというものはないのです。わたしの作品ではギターがよく登場しますけれど、当サイトで「ギターコード」という言葉は用いていません(もちろん「ピアノコード」なども同様です)

Aメロ、Bメロ、サビ、イントロ、間奏、後奏、1番、1コーラス目

流行歌の構成はさまざまありますけれど、ある程度お決まりのパターンはあります。たとえば、つぎの例は、いかにもJポップ的な構成のひとつです。

  1. 前奏:歌唱が始まる前の楽器演奏区間
  2. Aメロ:歌唱区間のはじまり
  3. Bメロ:Aメロとサビをつないで変化をつける歌唱区間
  4. サビ:曲の看板となるような、印象に残りやすい歌唱区間
  5. 短い間奏:前奏を短くしたものなど
  6. Aメロ
  7. Bメロ
  8. サビ
  9. 間奏:ギターやピアノなどが主役になる楽器演奏区間
  10. AメロかBメロ、または大サビ(曲中で1回だけ出てくる歌唱区間)
  11. サビ(2回以上繰り返すことも多い)
  12. 後奏:歌唱が終わったあとの楽器演奏区間

前奏のことは「イントロ」と呼ぶことのほうが多いでしょう。後奏のことを「アウトロ」と呼ぶ場合もあります。

曲中の特定の範囲について言及したいとき、楽譜があるならセクション記号とか小節番号とかで示せますし、音源があるなら何秒から何秒まで、という指定もできますけれど、楽譜も音源もない場合、どうやって範囲を指すか、言葉が欲しくなります。それで、このような区切りかたをして、「Aメロは静かめに……」とか「最後のサビが半音上がって……」とかいうと便利なわけです。

イントロなどに比べ、Aメロ・Bメロといった区別は恣意的になりがちです。当サイトの楽曲紹介ページでも、やや不用意にAメロだのなんだのと書いていることがあります。ふつうこれがAメロに該当するだろう、というなんとなくの感じがあれば、そのように書くのですけれど、厳密なものではありません。また、必ずしもサビと呼ぶ必要はなく、AメロとBメロだけで説明できる曲もたくさんあります。AメロとBメロだけの場合、Bメロがサビになる場合と、AメロのほうがメインでBメロで変化をつけている場合とありますし、どちらともいえる場合もあるかもしれません。CメロやDメロが出てくる場合もあります。Aメロ・Bメロ・サビ、という形式なら、大サビをCメロと呼ぶこともあります。

また、サビ以外の歌唱区間は「平歌[ひらうた]」とも呼ばれます。

Aメロのなかで、2回ぶんのよく似た繰り返しがあるときに、それぞれを区別したい場合は、「A1」「A2」としたり、2回目のほうを「A'」というふうに書いたり、とにかくわかるように表わします。当サイトでの書きかたは、いまのところとくに決めていません。

さっきの例では、Aメロ・Bメロ・サビのセットが2、3回出てきます。1回目のセットを「1番」、2回目を「2番」、3回目を「3番」というふうにふつう呼びます。おなじ意味で、「1コーラス目」「2コーラス目」「3コーラス目」ともいいます。「フルコーラス」というのは、(途中で切らずに)曲の最後まですべて、という意味になります。

ただし、英語圏だと、Aメロなどを「バース」と呼び、サビを「コーラス」と呼びます。Bメロや大サビを「ブリッジ」と呼んだりもします。

このページでは用語の混乱についてたびたび触れていますけれど、ここにもややこしさが見られます。わたしは日本語的用法で「1番」とか「サビ」とかの言葉を使っています。盛り上がりのセクションをなぜ「サビ」というのか、起源を考えるとこれまた相当あやしいですね。

あまり科学的な厳密さを求めると、かえって定型的な構成に思考も縛られることになりますから、ある程度いいかげんなくらいでもいいと思います。でも、説明の際にぴったりした言葉がなくて不便を感じることもあります。

リバーブ、エコー、ディレイ

エリン音楽ひろば 2022年6月のページの、「特集・エコーやリバーブっぽい音を作るには?」の節で、かんたんな説明を書いています。エコーとディレイも、どっちがどっちなんだ、と悩ましくなる用語です。

定位、パンポット

「音像定位」や「音源定位」という専門用語があります。不案内なので深く立ち入らず、おおざっぱにいうと、どこから音が出ているように聞こえるかについて指すときに「定位」という言葉を使います。どこから、というのは角度と距離の組み合わせのことになります。距離については、ここでは置いておきます。わたしは、おもに「左右の定位」というようないいかたをします。

チャンネルをふたつ以上使って立体音響[ステレオ]で再生する場合、どのチャンネルからどのくらいの大きさで音を鳴らすかによって、定位感を制御できます。以下、一般的な「右と左の2チャンネル」の場合で説明します。

おなじ音声を右側・左側の両方から出しつつ、右側のほうをより大きい音量にすると、(両方のスピーカーから鳴っているにもかかわらず)やや右側から音が出ているように聞こえます。

ミキサーやMIDIなどでは、左右の音量バランスを「パンポット」で表現します。パンポットは、もともと「パノラミック・ポテンショメーター」の略称ですけれど、さらに「パン」と短く呼ばれもします。パンポットが中央に設定されている音声は、左右ともおなじ音量で出ます。パンポットで左側のチャンネルの音量を下げることを「パンポットを右に振る」というふうにいいます。

実際には、左右の耳に届く音量が違う、という以上に、左右の耳に音が届くタイミングのわずかな違いが、どこで音が鳴っているか認識する手がかりとなります。ほんの一瞬、右が先に聞こえたら、右側から鳴っているように聞こえます。これを「ハース効果」といいます。ずれが大きすぎると、ふたつの音として別々に聞こえてしまうので、意図的にハース効果をつけたいときは、ほんのすこしだけずらします。このように、パンポット以外にも定位感を操作する方法がありますし、「定位」と「パンポット」は同義の言葉ではありません。