エリン音楽ひろば 2024年2月

オンラインRPG『マビノギ』で、2024年2月25日に開催したプレイヤーイベント「エリン音楽ひろば」の内容を載せています。

第15回、ルエリサーバーです。主催は、羊野めろさんと、わたし(シラベルカ)です。

このページで扱っている『マビノギ』のゲーム画像やゲーム内データの知的財産権は、株式会社ネクソンおよび韓国NEXON社に帰属します。© NEXON Korea Corporation and NEXON Co., Ltd.

内容のまとめ

内容は、羊野めろさんのブログ記事もあわせて参照してください。

出てきた話題・質問を以下に要約しています。当日に言及できなかったことも書いています。

ドラムの音を、マビノギの男声や女声でまねて鳴らすということは可能でしょうか

アカペラにおける、ボイス・パーカッションがやりたい、という話です。ベースパートを男声で鳴らすのは「うちまで送って」でやったことがありますけれど、ドラムはさすがにまねようがありません。

旋律用の楽器の音色でパーカッションの代用をするには、ドレミとして聞き取りづらい(基音と倍音以外の成分が多い)ように発音させたいところで、その方法としては、ごく短い音符でアタック音だけを鳴らしたり、あるいは不協和音を鳴らしたりします。

とくにハイハットやシンバルの口真似には、「シー」とか「チッ」とかの子音が必要になりますけれど、マビの女声の音色は「ラー」、男声の音色は「ナー」で固定されていて、どれだけ短く鳴らしてもリリースがすこし伸びて、「ラッ」「ナッ」と聞こえるのが防げません。

男声の幻想のコーラスなら「ドゥ」「カ」「サ」に似た発音ができるので、がんばればそれっぽい音づくりもできるかもしれませんけれど、合奏に幻想のコーラスを使うのは、タイミングをぴったり揃えるのが困難です。

いまAIが流行ってますけど、お絵描きの世界で荒れてるみたいなのが音楽の世界でも起きたらいやだろうなあ、オリジナル曲を書いても機械の方が優秀だったら……その辺の心配といいますか、皆様どう思われていますでしょうか

まず、いろんなコメントが出たので、部分的に拾って要約します。

  • いま「生成AI」と呼ばれているものは、厖大なデータから最適な「平均」を提案しているのに過ぎない。単なる「道具」で人間の創造性が脅かされることはない
  • 人間の心を感動させたり想像力を掻き立てたりするのは人間がつくる曲しかないかと
  • MIDIデータを学習して生成する作曲AI「AIVA」を使った作品を、動画サイトで見かけることがある
  • AI絵はみんな同じ顔。いまのヒット曲もみんな似たようなものばかりだから、AIでも用が足りそう
  • 平均的なAI生成作品があふれればすぐに飽きられる
  • AIでつくった画像や音楽を、自分がつくりました! といったところで、心から満足できるのかどうか
  • AIには個性あるかな?
  • 音は強弱、倍音構造の差、長さが基本の要素。反響とかしていたとしても、そういうのを含めて学習すれば技術的にはAIで生成できる。でもコストに見合わないので、まだ実用レベルに至っていない

イラストの自動生成にくらべると、音楽の自動作曲は比較的長い歴史があるので、音楽に関わっているひとたちは、そこまで慌てていないかもしれません。AI技術は作曲家にとって脅威ではないし、人間の創造性を超えることはできないけれど、有用なツールであり、未来の音楽のありかたを変え得るものである――というような、わりと楽観的な見かたも多いそうです。

しかし、有用なツールにしていくには、どんなデータを学習に用いたか、すべて開示されていなければなりませんし、使い手側が自由に置き換えられるものでなければなりません。西洋クラシックや欧米の有名なポップミュージックだけ模倣できて、有用なツールだといわれても、わたしには、へえそうですか、というところです。そして、厖大なデータを勝手に集めて学習に用いることについての法的な問題をクリアするにあたって、著作権とは、という根っこからの問い直しがされなければならないでしょうし、また、そのような動きが大きくなっていくことでしょう。

……と、こんなことを書いてみても、それこそチャットAIに尋ねれば答えてくれるようなありふれた見解にしかならないのが哀しいところ。わたしが考えたことは誰かがすでに表現済みだ、という無力感は、生成AIが普及するにつれて、さらに強まっていくでしょう。なにかをデジタル媒体で発表してもビッグ・データに取り込まれるばかり、という別のむなしさも募るばかりです。

生成AIによる作品と自分の手でつくった作品との優劣なんて、無力感との闘いにくらべれば、気にするほどのことではないと思います。また、AI製・人間製という区別なんていうのも、完全に純国産の加工食品がきわめて少ないのとおなじで、こだわっても無意味といえます。自動のピッチ補正を施した歌がどれだけ広まっていることか。

録音物を聴くこと、つくること、やりとりすることは、テクノロジーと時代の移り変わりに合わせていくところもあるでしょう。でも、楽器を弾き、のどを震わせて唄う楽しさは、いまも昔も変わりません。そこだけは、AIだの超知能だのが世界を回すようになろうと関係ないから、音楽に絶望しない為にも、その原点を忘れないようにしたいものです。

みんなは音楽を聴く環境やオーディオ機器、どんなのを使ってるか聞きたいです

680円のヘッドホン、数千円のスピーカー、アンプなどを含めて数十万、車が買えるくらい、……と、みなさんさまざまです。

機種のメーカーや型番もいくつか出てきました。ここで列記してもしょうがないので省きますけれど、わたしの使っているヘッドホンについては、宅録に使っている楽器や機材の紹介のページに載せています。スピーカーもありますけれど、もらいものの安物で、小さい音で聞き流す用にしかほぼ使っていません。おそらく、音楽をつくっている人間としては、貧弱な環境しか持っていないほうだと思います。

だからいうわけではないですけれど、いいをつくるのに、高級な再生機材は必須ではありません。でも、いいかどうか聴き分けるちからをつけるには、やはりそれなりに投資して、いろんな機材・いろんなセッティングを試して突き詰めないといけないのだろうなと思います。そうはいっても、居住環境によってはどうにもならないこともあります。

質問したかたは、どんな再生環境に対しても、自身のMML演奏が意図した聞こえかたで届いているかどうかが気になっているようすでした。いまのマビの仕様では、意図したとおりの音を届けるには、とくに左右の定位と音量差について、機材うんぬん以前の問題が多すぎるので、考えてもしかたない気がします。

特集・アレンジのお話

休憩を挟んで、後半はエリン音楽ひろば 2022年10月以来ひさびさに、講座系の企画を持ってきました。

演奏会で弾くひとがもっと増えたら、と考えるめろさん。パブリックドメインな曲をアレンジするといってもどうしたらいいのかわからない、というひとにとって、いいきっかけになれば、ということでこの企画をやることにしたのでした。

当初のめろさんの案は、おなじ曲をいくつかのジャンルでアレンジしたものを弾き、ちょっと説明を入れつつ、みんなで思ったことをしゃべってもらいながら、いろいろ話題を展開させていく、というようなものでしたけれど、それでは高度すぎると思いました。ピアノロールで「音符のバーを左右や上下にずらすだけでもいろいろできる」というふうに、単純な手法に切り分け、そこから出発すべきだと思いました。

本番では、ピアノロールを載せたお絵描きチャットを、演奏に合わせて出しつつ説明していきました。吟遊詩人掲示板にも数日間、MMLを公開していました。おもな題材として「リパブリック讃歌」を取り上げました。わたしの用意したぶんをちょっと紹介します。演奏音源は載せません。

まず、8分音符刻みで音符が置かれているメロディがあるとして、これを(説明の都合上)基本パターンとします。〈ソソソファミソドレ〉という音符の並びは変えずに、リズムパターンだけを変形させていきます。

1拍を2等分から3等分に変えて、1拍のウラを3等分の3つ目にずらしてみます。音符の長さも3等分に合わせます。高さはそのままです。こっちのほうが「リパブリック讃歌」らしい、ハネるリズムです。

1拍を4等分に変えて、1拍のウラを4等分の4つ目にずらしてみます。やはり音符の長さも調整します。高さはそのまま。

どうも、西洋クラシック系の捉えかただと、ひとつ前の例、3連符系のハネるリズムは「崩した」「あいまいな」リズムと見なされがちなようです。両者は別物で、どちらも重要です。3連符系のリズムであるべきところを付点系のリズムで打ち込んでしまうと、なにか違うぞ、ということになりがちです。もちろん、アレンジとしてあえてそうするのならOKです。

さて、もう一例。音符の位置は基本パターンのまま。そこから、各音符の発音の長さだけ、ぎゅっと短くしました。スタッカート奏法です。音色づくりともいえる領域です。

ほか、音符をさらに前後に動かしたり、3拍子などに変化させたりした例も出しました。

本格的なアレンジをするのは技術が要りますけれど、こういった例なら、ピアノロール上で音符のバーを単純に動かせばいいので、気軽に取り組めるのではないでしょうか。伴奏もおなじようにリズムを合わせればできあがり。もっといじりたい欲が湧いてきたら、必要そうなことをちょっとずつ調べたりまねをしたりすれば、だんだんいろんなことができるようになっていくはず。

わたしの実演のあと、めろさんが「リパブリック讃歌」や「きらきら星」で、いくつかのジャンルでのアレンジパターンを、リズムのほか、音の高さもちょっと変えてみる例を織り交ぜて紹介しました。

音の高さ、音符の数、リズム、いろんなものを徹底的に変えていったなら、どこまでアレンジでどこから自作になるのか、という疑問も生まれるかもしれません。実際にそういう声も挙がりました。そこまで踏み込む予定がもともとなかったのですけれど、わたしとしては、自作曲の着想もこういうところから始めればいいのよ、という裏メッセージを内心込めていたのでした。


いつも、わたしが全体をあまりに決めすぎていたので、お互いに必要だと思うものをつくって、お互いに持ち寄ってまとめていく、というふうに準備しました。

そうした経緯の末、いつものごとく詰め込みすぎてしまい、主催側からつぎつぎに出し物をするような、まとまりを欠いた内容にとどまってしまいました。予想外の質問や反応が飛んできて、ああそういう視点は考えてなかったなあ、などと思いながら、進行を気にしてあたふたするばかりでした。

3人か4人くらいが相手であれば、意見交換しながら進めることもできるかもしれませんけれど、音楽的背景もスタンスもばらばらな10数人を相手に、しかも対面ではなく単にキャラクターのアバターが集まっているという状態で、ワークショップっぽいことをすることには無理があることが確認できました。

定期演奏会にはない独特のおもしろさや熱が届けられていたとすれば、わたしとしては失敗ではなかったと思っています。でも、実用性を目指した講座企画は、当分やらなくなります。質問・相談コーナーのなかで補完できればと思います。

スクリーンショット集

画像1:開会時

オープニングテーマを弾いているようすです。

画像2:テスト演奏

ひとつめの質問に関連したテスト演奏がありました。制作中の自作曲とのことでした。

画像3:休憩タイム

会場のようすを捉えようとしてスクリーンショットを残すと、たいてい自キャラが豆粒になっているものばかりになるので、意識的にぐいっとアップで。休憩時にBGMを流しているようすです。

画像4:最後の合奏

そろそろそういう季節ということで、「おもいでのアルバム」を最後に合奏しました。アレンジの話にもちょっと絡めつつ。

画像5:記念撮影

23時50分ごろ、閉会時の記念撮影です。みなさんありがとうございました。