エリン音楽ひろば 2023年12月
オンラインRPG『マビノギ』で、2023年12月28日に開催したプレイヤーイベント「エリン音楽ひろば」の内容を載せています。
第14回、マリーサーバーです。主催は、羊野めろさんと、わたし(シラベル)です。
このページで扱っている『マビノギ』のゲーム画像やゲーム内データの知的財産権は、株式会社ネクソンおよび韓国NEXON社に帰属します。© NEXON Korea Corporation and NEXON Co., Ltd.
内容のまとめ
内容は、羊野めろさんのブログ記事もあわせて参照してください。
出てきた話題・質問を以下に要約しています。当日に言及できなかったこともいくらか補足しました。補足ばかり長々と書いているような気も。
- (合奏の)配置図をつくるとき、どうしたら見やすい絵チャができますでしょうか。コツとかありますでしょうか
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お絵描きチャットは、最大でヨコ256ピクセル・タテ96ピクセルの広さしかありません。ドット絵師だったら「それだけ広ければ不足はない」というかもしれませんけれど、とにかく文字をたくさん詰め込めるようなゆとりはありません。
だから、欲張らずに必要最小限の情報に絞って書き込みましょう。文字色と下地の色については、重要な情報なら、白と黒の組み合わせで明暗差(コントラスト)をしっかりつけましょう。重要でないところは、白と黒でも、白と灰色でもかまいません。
楽器の名前は、たとえば「チューニングホイッスル」なら「Tホイッスル」というふうに略すのが一般的です。「Tホイ」などと書けばさらに省スペースになりますけれど、あまり略しすぎるとわからないひとも増えます。英語表記も、通じない可能性があるので避けたほうが無難です。
近年の演奏会のようすを見るかぎり、「前列から3・5・2人です」というような配置指定をいうだけでたいてい間に合うようですけれど、それだけでは伝えきれないからこそ絵チャットを援用したいわけです。でも……。
画像1は、合奏の配置図の例です。ふたつの例を左右に並べています。左の例のわかりやすさは文句ないはずです。何列目で左(右)から何番目で前後が誰になるか、という情報がちゃんと伝わります。罫線は必須ではないけれど、やはり、うんと見やすくなります。上下のどちらが前列なのか迷わせないように、「(客席)」という表示を下につけて、下のほうが前列だとわかるようにしています。
さて、右の例も見やすいことは見やすいのですけれど、配置が難解すぎます。たしかに言葉だけでは伝えられない配置ですけれど、お手伝いメンバーにこのとおり並んでもらうのは無茶なことで、何列目の何番目とか、左寄りとか右寄りとか、そのくらいの指定にとどめないと、わけがわからなくなります。たとえば、オーケストラみたいに扇状のイメージで並んでほしい、というときもあるかもしれません。そういう場合は事前にメンバーを集めて予行練習するくらいの下準備がどうしても要るのではと思います。
画像1の左の例は、言葉で「前列中央寄りに女声とシロフォン、中列左からマンドリン、リュート、バイオリン、ハープ……」というふうに伝えることもできますから、絵チャットの配置図が要るほどではありません。それでも絵のほうがわかりやすい、と思ったら採用すればいい、という程度のことです。ふつうのチャットだとログが流れていくので、絵チャットのほうが表示したままにできる、というところが利点になります。
限られたピクセル数の領域で文字を表現するのは、アウトライン・フォントよりビットマップ・フォントのほうが得意です。(たとえばコリモフォントは、縦12ドット、横8ドットでひらがな・カタカナ・英数字などを表現したデザインになっています。)90年代ごろまでのゲームに詳しいひとなら、その種のフォントになじみがあると思います。マビでもビットマップ・フォントが使われています(近年は、高解像度環境に対応する為か、アウトライン・フォントにだんだん置き換えられています)。いくらユニバーサル・デザインを考慮したフォントであっても、サイズをぎゅっと縮めると、にじみや潰れが目立つばかりなので、ドットがくっきりするフォントのほうが、こういう場合は有利なのです。また、フォントを用いるのであれば、明朝体ではなくゴシック体を選ぶべきです。明朝体は、そこそこの解像度で表示されていないと読みづらいものです。
ゴシック体のビットマップ・フォントをよく観察・研究して、1ドット違いで大違い、という感覚がつかめるようになったころには、可読性の高い絵チャットが描けるようになっていることと思います。――いや、そこまでの域に達しなくてもいいんですけれど、とにかく「くっきり・はっきり・解釈が分かれないようなデザイン」を意識しましょう。
- 私の演奏、音量小さいと思いますか?
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その場で試演奏があったわけではないので、答えられるひとが限られてしまう感じでしたけれど、演奏音が大きすぎたり小さすぎたりすれば、PC側のボリュームを適宜いじればよいので、問題ない、という声がありました。また、以前聴いたかぎりでは小さいという印象はなかった、という声が複数出ました。
音量が大きいほうが偉いわけではありません。いちばん聴かせたい部分(メロディなど)がすんなり聞けるよう、バランスをとることが大事です。メロディを担当することが多いフルートは、ほかの楽器の音色にくらべて音量がちいさめです。そのフルートを最大のv15で鳴らしたとき、埋もれないように伴奏の音量を調整しましょう。それがひとつの基準になり得ます。リラを常用するひとはリラを基準にしてもいいです。メロディ担当はつねに女声、という楽師もいるかもしれませんし、同音重ねで音量を底上げする手もあるので、解法はひとそれぞれ。こういったことは、たくさんつくっていけばだんだんわかります。わたしも、MMLをつくって弾いて録音して修正して、と何年も繰り返していくうちに、自分なりの実例と基準ができていったわけです。
音量に関する客観的な指標として「ラウドネス値」があるということも紹介しました。大きい音がほんの一瞬だけ鳴っても、音が大きい、とはあまり感じません。1秒なり10秒なり持続的に音量が大きいと、うるささを感じるわけです。「RMS」は、ある区間の音量の平均をとった値です。ただしRMS値は、人間の耳で知覚できないほどの低い音・高い音も計算に入れてしまいます。それで、人間の聴覚の傾向も計算に含めた指標が登場しました。10数年ほど前のことです。それが「ラウドネス値」で、単位「LUFS」で表わします。仕様の名前は「EBU R128」です。くわしいことはそれらの単語で検索すれば、いろいろな解説が出てくると思います。人間の聴覚に最適化されているほか、一瞬だけ大音量が鳴ったり長い無音区間があったりする場合に、測定値がおおきく影響されることのないよう設計されています。
ピークメーターを一曲のあいだじっと見つめ続けているより、こういう測定値を参考にするほうが楽です(いまのマビの演奏は音割れしないので、ピークについては気にしなくていいと思います)。
こういう指標は、音楽制作というよりむしろ、放送業界での需要がもともと強かったようです(コマーシャルがうるさすぎることなどの反省)。やがて、音楽・動画の配信サービス(ユーチューブやスポティファイなどなど)でも、このラウドネス値に基づいて再生音量が自動で加減されるしくみ(ラウドネス・ノーマライゼーション)が実装されています。いってみれば「リプレイゲイン」みたいなものです。ひろばでは、「ラウドネス値、なんだそりゃ?」という感じの反応でしたけれど、このようにすでに身近なところで使われています。
一般的に「音圧が高い」と評される楽曲は、ラウドネス値が高い、ということになります。手持ちのCDなどのラウドネス値を測ってあれこれ比べてみるとおもしろいかと思います。
音楽を扱うソフトをいくつか使っているなら、RMSを測る機能だったらどこかで見つけられるかと思います。LUFSが測れるソフトやプラグインは、専門的になるのでやや少なめになりますけれど、探せばいろいろあります。たとえば動画や音声を処理する「FFmpeg」というコマンドラインツールがあります。
「FFmpeg」をそのままで使いこなすのはたいへんなので、ウィンドウにファイルをドロップするだけでFFmpegに処理させて、見やすい書式でラウドネス値ほかの計測結果を表示してくれるソフトを、わたしは普段の音楽制作で使っています。「LUFS Checker」というソフトです。ベクターのサイトでダウンロードできます。
数分の音源なら、10秒か20秒かそこらで計測が終わります。すると、いくつかの値が表示されるのですけれど、「Integrated loudness」が全体のラウドネス値ですので、ひとまずそれを見て判断すればいいでしょう。
どういう範囲の値ならいいのか、という明確な答えはありません。マビでの演奏という文脈に沿っていえば、いろんなひとの演奏を、すくなくとも自分の作品の演奏を(集中鑑賞モードの音量で)録音して、ラウドネス値を調べ、おおよその傾向をつかみます。そうして(似たタイプ・似た編成の)各作品の計測値を比べれば「これはちょっと大きすぎだった」「もうちょっと音量上げてもよさそうだ」といったことが判断できます。あくまで判断材料のひとつです。――とはいいつつ、これくらいの用途だったらRMSを測るだけで充分なんですけれどね。
プログラムが処理する計算はさぞかし難しいものでしょうけれど、わたしたちは結果の数値を(目標値や別の曲の計測値と)比べるだけです。べつに難しくもなんともありません。
ソロ演奏は小さめになる傾向があります。曲の内容にもよるので、あまり「目標値を設定してなるべく近づける」ことは意識しなくてかまいません。不要に小さすぎる・大きすぎることが防げれば、それでいいのです。
マビのMML制作でRMSやらラウドネス値やらを持ち出すのは、少々行き過ぎかもしれませんけれど、作品づくりで行き過ぎだとかいって遠慮や手加減をすると、ろくなことがありません。使える、と思ったものはなんでも取り入れるべし。もちろん耳での確認が必須なのは、いうまでもありません。
ちなみに、当サイトに載せているマビノギMML演奏音源(M4Aファイル)のなかで、いちばんラウドネス値が高いのは、ざっと調べてみたところ「有刺鉄線」の-11.3LUFSでした。次いで「カエルよ 海へ往け」の-12.8LUFS、「360°」の-12.9LUFS。ただし、64bit改変前の音源である点に注意が必要です。「有刺鉄線」と「カエルよ 海へ往け」は、リズム隊がだいぶうるさいせいです。女声3本のハモりは「360°」のバランスより大きくはできないな、というふうに思っていて、ひとつの基準になっています。つくった当時はさらにやかましかったのでした。
- オリジナルの曲づくりのとき、メロディは、どんなかんじで作られますでしょうか
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ひとによって、夢で聞いたフレーズがきっかけとなったり、鼻歌で生まれたり、コード進行(和声)を決めてからそれにぶつからないようにメロディを乗せたり、歌詞から先にとりかかったり、いろいろのようです。
作曲教室だと、なにか具体的なキーワード(夏祭りとか)を決めて、それをイメージしたメロディをつくる、という訓練もあるようです。子供だとダイレクトに表現できるのかもしれませんけれど、むしろ大人だと、こういう場面でこういう種類の音楽が流れるもの、という固定観念が(とくにメディアの影響で)染みついてしまっている可能性が大で、そういう音楽の縮小再生産にしかならないような気がします。でも、とっかかりとしてはそういうのもよいのではないか、という話でした。
正直、メロディをひねり出すだけだったら、コード進行に合う音を選ぶなどして、技術でいくらでもつくることはできます。むしろ問題は「本当に自分がつくりたい・つくるべきメロディか」という判断です。意識的に多作するのはよい訓練なのですけれど、それとは別の話です。「みんなつくっているようなメロディ」は、都会をちょっと歩けばすぐに見つかるコンビニ、みたいなもので、すでに飽和状態にあります。「みんなつくっているようなナニナニ」をどろどろに溶かしたような、それっぽい画像、それっぽい文章なら、AIで済ませられる時代になっていますし、音楽も部分的にはそうなりつつあります。一方、そんじょそこらのひとやAIがつくれないような独特なものを摸索すればするほど、難解になって聴き手になかなか届かなくなりがちです。技術の進化にわくわくするところもありますけれど、その技術に、またはその技術を提供する会社や団体に、創作の枠組みがあらかじめ規定されて縛られてしまう面もあります(そんなこといったら世のなかのDTM作品はすべてそうじゃないか、といわれそうですけれど、そのとおりです)。そういったことを思うと、徒労感や無力感に見舞われます。これは音楽に限らず、創作全般に共通する話ではないでしょうか。なにをつくっても無駄ではないのか、だれかの足跡をなぞってるだけではないかと。「でも、それでもやっぱり、曲つくりたいのよねー」という気持ちが残っているかぎりは大丈夫。夢で音が鳴ったりとか、ふと口ずさんだりとか、自分自身の内側の根っこや無意識から出てくるものを大事にしたいものです。そういうものは、どんなにベタな「みんなつくっているようなメロディ」であろうと、自分の作品として自信をもって仕上げられるものです。(わたしはちょっと甘くて、無理やりひねり出したメロディでも、制作していくうちにだんだんかわいく思えてきて、その気になってしまうところがあります。まあ、愛着をもつのも大事なんではないでしょうか。)
次回以降の開催曜日について
質問コーナーの最後に、ひろばの開催曜日について、こちらから意見を募ってみました。
ひろばはずっと、偶数月の最終木曜日に開催してきました。土曜は定期演奏会が多いので、ジャンルがかぶるイベントをなかなか新規に開けないものです。金曜も演奏会や音合わせ系の集まりがあります。木曜を選んだのはそういう理由でもあるし、土曜になかなかインできないひとでも参加できる、演奏関係の場所があったらいいのでは、という考えもありました。
しかし、これまでやってきて、平日しか来られないのでありがたい、という声もそんなになかったし、土曜の演奏会でよく見る顔ぶれがほとんどで、そういう意味での架け橋にはついになり得なかった、というのが実感で、木曜に開催する意義が感じられなくなっています。やはり、いろんなひとに来てもらいたいものです。
日曜日に行なわれるイベントもたまにあるし、ひろば立ち上げのときは日曜は選択肢にありませんでしたけれど、いまや、日曜に開催できない強い理由がなくなりました。
それで、日曜に開催日を移すことを検討していますけれど、めろさんもわたしも迷っているところです。そもそも、曜日で悩む以前に、将来的にマビノギがどう変わっていくか、またマビノギでの演奏文化がどうなるか、そういったもろもろのことによっても、ひろば自体が続けられなくなる可能性すらあります。そうなる前に、思いつくことは試したほうがいいと思っています。まあ、放送時間をゴールデンタイムに引っ越したとたん3ヶ月で打ち切りになるテレビ番組みたいなことにはなりたくないですけれど。
なんにしても、2024年1月現在では、まだ決まっていませんので、御意見がありましたらめろさんに知らせていただけたらと思います。この件については、そのうち改めておしらせをするつもりです。曜日を変える場合もおそらく最初は、ちょっと試しに、という形になるかなあと思います。
企画コーナー・サイコロトーク
休憩を挟んで、後半は2023年4月以来のサイコロトーク。参加者のかたにサイコロを振ってもらって、その出た目によって以下のテーマで数分しゃべっていただく、という企画です。しゃべったひとが次のひとを指名(または主催に指名を一任)します。
- めろに・シラベルに質問
- 初めて買ったCD・レコード(・配信音源)
- 思い出に残っているマビノギの演奏会・イベント
- キャラ名の由来
- この曲がおすすめ
- 来年のマビノギでの目標
前回、主催への質問の目ばかり出たというのもあり、2枠から1枠にまとめました。どっちみちつぎのひとを指名できるから、ラッキーナンバーのルールもなくしてシンプルにしました。
めろさんから受け取ったサイコロを装備して、サイコロ投げアクションでサイをふります。サイをふるときのBGMを挟むのがわたしの担当。
以下、サイコロが投げられた瞬間のショットをいくつか並べます(画像4、5、6)。
前回、サイコロ偏り疑惑で盛り上がりましたけれど、今回も1の目が2度も出て、みなさん大喜び。わたしたちへの質問がどうのというより、単に1の目が出したいだけのような気もしなくはなかったんですけれど、まあ、答えやすい質問が来たのでホッとしました。
なぜか最後にはめろさんがサイをふる羽目に……。
というわけで、普段聞けないような、みなさんのおもしろトークや豆知識がいろいろ飛び出しました。
閉会後も、サイコロを振りたいと自ら申し出たかたがふたりもいて、番外編が展開されたのでした。
スクリーンショット集
今回の来場者はすくなめでした。年末でしたからね。……それともほかの理由?
ゆったりしたBGMで休憩タイム。わたし自身はあまり休憩できていなかった感じでしたけれど、このあとのサイコロトークはわりとリラックスしていたので、バテずに終えられました。
サイコロトークのあと、去年同様の締めくくりとして、めろさんによる「お正月」のハンドベル合奏。途中からピアノロック化する、軽快で楽しいアレンジでした。
23時45分ごろ、閉会時の記念撮影です。みなさんありがとうございました。今後ともごひいきに。